MAYA from West End

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EverydayTalk

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彼女

去年の秋、遊びに行ったクラブで、一人の女の子を紹介された。「マヤです」と私が名乗るとその子はちょっと首をかしげ、それから、まるでピーターパンのようにぴょんとフロアーの上に飛び跳ねた‥ように見えた出会いの瞬間を今でも覚えている。
「マヤさんて‥写真を撮ってるマヤさんですよね?」
彼女は言った。その年の夏、私がインディーズ誌『MASSAGE』に発表した、写真とエッセイのページを見てくれていたということだった。
「ありがとう」
私がお礼を言うと、彼女はゆっくりと喋り始めた。とてもゆっくりと、大事なことを言葉にまとめようと必死なのだと伝わって来るような話し方だった。
「私‥、マヤさんのあのページを見て、何かが変わったなあって思いました」彼女は言った。「私、ずっと絵を描いて来て‥、でも全然上手くいかなくて‥。会社の仕事もアート関係なんですけど、全然ぱっとしなくて‥、もう私は本当にだめなんだなあって、あきらめて生きてたんですよ。‥でも、マヤさんのあのページを読んで、もう一度やってみようかな、っていう‥、そういう気持ちをもう一度持てるようになったんです」
その言葉を聞いた瞬間、私の胸の中に、見たこともないほど美しい花が咲いた気がした。初めて自分の写真展を開けたとき、自分の文章と写真が完璧な形で『MASSAGE』に載ったのを見たとき、本当に嬉しかった。「いい写真を撮れた」と思う瞬間、自分の納得がいく文章を書けた瞬間、いつも、たとえようもないほどの幸福を感じる。でも、このときより嬉しいと思った瞬間は他にない。

自分の作ったものが誰かの人生とポジティブなつながりを持つことが出来る?そんな素晴らしいことが自分に起こるなんて、想像することも出来なかった。今でもまだ信じられないけれど、でも、それは本当に起こったことで、きっと私の作品を世に出すために一緒に走ってくれた人たちも、この話を聞いたら同じように喜んでくれると思う。

    *

そして、1年経ったこの秋、更に素晴らしいニュースが彼女から届いた。あの後、心機一転、描き始めた作品が、最難関と言われるイラストレーションのコンペで入選したというのだ。
あまりにも嬉しくて自分のことのように緊張してしまい、長くその雑誌、『Illustration』168号を見ることが出来なかったけれど、どきどきしながらページをめくると、彼女の名は確かにそこにあった。
おめでとう。
本当におめでとう。
Pommette、というのが彼女のアーティスト名で、最近、久しぶりに会った彼女の目には、1年前にはなかった深い自信が、彼女が描く森の木のように静かに根を生やし、豊かに葉を茂らせているのが見えた。

Pommette、『Illustration』誌上コンペ入選作品
☆『Illustration』誌上コンペ選考の様子
☆Pomette作品ブログ




November 14, 2007 14:42
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