西端真矢

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新しい花器に最初の花を生ける 2026/07/30



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先日柿傳ギャラリーで求めた岩瀬健一さんの花入が届いたので、早速庭の花を生けてみた。
この灰釉手付瓶は、古代日本でも最も早期に焼き物集積地として発達した愛知猿投窯の手付瓶に範を取ったとのこと。
真っ白ではなくほのかに緑がかった色合い、均整の取れたたたずまい、そして釉薬が生み出す表情の面白さが一体となった美に心惹かれた。
まず白い花を生けられたらと思っていたので、蛍袋の時季に間に合って良かった。
これから季節ごとに、庭の草花を生けて楽しみたいと思う。

歌舞伎観劇の日のきもの 2026/07/23



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こちらのポストでは、歌舞伎観劇の日のきものやお弁当などのあれこれを。
まずは、上の写真、じゃじゃーん、この日は桟敷席を取ったのでした!
ご一緒したのは、大学時代の同級生二人。
私は上智大学の出身で、上智の中でもかなりコアで勉強も厳しい哲学科の中でも更にコア、もはや希少生物だったラテン語専攻n変わり者女子三人が、五十代となった今、揃ってきもの好きという不思議。
ヨーロッパ思想の核の核であるラテン語を学んだとて、やはり日本人は日本文化に帰るのだろうか。

青い飛び小紋を着た友人、珠子は、KADOKAWAの有名編集者で、去年は一緒に本を作った。
偶然にも地の色がほぼ同じ練り色のほたるぼかし小紋の千草は、卒業以来人事畑を歩み、何と、昨年、私がよくお仕事をしているハースト婦人画報社の人事部長に就任。ラテン語三人娘のこの分かちがたい奇縁にはただただ驚くばかり。
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さて、桟敷席と言えば、特製お弁当。
予約しておくと、写真のようなお吸い物付きの見目美しいお弁当を運んでくれる。お味も上品で申し分なく、持ち込みもいいけれど、桟敷を取った時はお弁当が良いと思う。
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私のきものは、今年の夏、単衣と色違いで「むら田」さんで作った絽の絓引き。単衣のベージュ色に対し、こちらは淡い墨色で染めてもらった。光の加減では淡いブルーにも見える、徹頭徹尾自分好みの一枚。
帯は「たつむら」の矢羽模様名古屋帯を合わせた。
昨年、青梅の「白木屋呉服店」さんで他の帯を択んでいた時に見つけ、「真矢」の「矢」の帯!しかも配色がクールビューティーで超絶好み!もうこれは買うしかない!と予算オーバーで血の涙を流しながら購入したもの。一年越しにデビューさせた。
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この日の秘密は、帯揚げ。上の寄り写真をじっと見てほしい。きものと共布なのである。
実は、白地にグレーの流水模様の使いやすい絽の帯揚げを持っていて、この日もそれを締めようと引き出しを開けると‥‥濃い茶色の染みが複数個所!最後に締めた夏(もう何年前か思い出せない)に、洗うのを忘れたまましまったのだ‥‥と蒼ざめる。
その時点で観劇の日までもう一日しかなく、新しい帯揚げを探す余裕は、ない。
若干(若干?)素材感は合わないけれど、麻の白地帯揚げにする?はたまた暑苦しいけれど極力見えないように帯に押し込んで、縮緬の淡グレー地で行く?(苦渋の選択)などと悪あがきの末、そうだ、きものの残布があるじゃない!と思いついた。
かなり長さが足りないものの、入り交結びなら何とか。かろうじて重なった部分に両面テープを仕込んで、浮かないように留めて‥‥何とか一日を乗り切った。仕立てると残布が出るちびっこならではの、綱渡りの一策。良い子は真似しないでください。
帯締めは「道明」の冠組練り色。草履は「辻屋」さんの絽の一足を。
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七月、歌舞伎座では、生け花各流派と歌舞伎との〝共演〟企画が開催されている。
二階ロビーにて、週替わりで、各流儀お家元や東京支部長など、幹部クラスの華道家が演目の世界観を花で表現している。
私が学んだ真生流の新家元、山根奈津子先生が10日まで「末広がり」を担当されるとのことで、この拝見がこの日のもう一つの目的だった。
お話の要である扇を大胆に用い、紫陽花とナナカマドで格調高く。
作品と一緒に写真も撮って大満足。
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一つ反省点は、バッグ。「ぜんや」さんのパナマの夏バッグはとても気に入っているのだけれど、この日のコーデには合わなかった気がする。白か淡グレーのバッグにするべきだった。骨の髄から東京人のため、とにかくすっきりと着たいのです。
  *
こうして7年ぶりの歌舞伎観劇は盛りだくさんに過ぎていった。
3年前に受けた子宮がん手術の後遺症で腸の位置が安定せず、長時間同じ姿勢で座ることが難しかったため、長く歌舞伎観劇を控えていた。
そろそろ大丈夫かな、と今回乗り出した訳だけれど、最悪、気分が悪くなってもその場で横になれる桟敷にしたことで、いっそう安心して臨むことが出来た。
つき合ってくれた珠子、千草、ありがとう。やはり歌舞伎は楽しい。きものだと更に!

七月大歌舞伎甘辛批評 2026/07/20



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今月第一週、7年、あるいは8年振りに歌舞伎座へ出かけた。
母の介護、自分のがん手術、そして後遺症と苦しいことが続き、たぶん、最後に観に行けたのが2019年か18年だったと思う。白い壁、黒い瓦屋根、そして赤い提灯の下がる正面玄関が見えて来た時、帰って来たよ、と胸の中で呼びかけた。
  *
今回の観劇の目的は複数あったのだけれど、一番は、中村隼人を見ることだった。
実は、隼人のことはこれまでずっと〝つまらない役者〟だと思って来た。
顔は文句なく美しい。品も良い。踊りもお芝居もきちんきちんとこなしていて、真面目に稽古しているんだろうな、性格も真面目なんだろうな‥‥でも、それだけ。何かが足りない、見ていて面白くない。そんな役者だと思っていた。テレビでの演技を見ても同じことを感じた。

役者に一番大切なものは、演技力。これはもう言うまでもないことだけれど、それに加えて華、もしくは毒がなければいけないのだろう。何だか分からないけれど、どうしてかこの人に目が行ってしまう。そのような力を放っていなければいけない。それさえあれば顔は美しくなくてもいい。
逆に言えば、顔だけが美しくても華がなければ、味のないガムのようなもの。中村隼人のことはそう認識していた。
  *
ところが、昨年『べらぼう』を見ていると、彼が少し変わった気がした。
ところどころやや大根な演技もあるものの、不思議と目が行ってしまう。気がつくと「今週は隼人出るかな?」と主題曲の時にクレジットを探している。出て来ると嬉しくなる。私が歌舞伎に行けなかった7年の間に、彼に何があったのだろう?人間とは、役者とはまことに不思議なものだ。これはやはり歌舞伎座に足を運んで、生の演技を確かめなければいけないと思ったのだ。
  *
そうやって実際に見た中村隼人は、やはり変化していた。
松羽目もの(能や狂言を歌舞伎化した演目のこと)の『末広がり』は踊りの多い演目だけれど、手足が止めるべきところで止まり、流れるべきところで流れ、大変に小気味よい(何と皿回しまでこなしている!)。
そして、太郎冠者というコミカルな役柄に入り込み、楽々と、呼吸するように演じているのが見ていて伝わって来た。ちゃんと太郎冠者になっている。昔の隼人とは別人だった。

そしてもう一つ、この日彼が出た演目、『御浜御殿綱豊卿』は芝居自体が冗長でいま一つ面白くないのだけれど、一番の見せ場で超絶の長台詞をこなしながら、赤穂浪士の悲哀を見事に表現していてなかなか胸に迫るものがあった。
どうやら中村隼人は本当に脱皮したようだ。とてつもない華を放っている、とまではまだ言えないけれど、いい役者になって来ている。
ただ歌舞伎を見に行くのだけでは、少し物足りない。好きな役者が出ているのを見るのがやっぱり楽しいのだから、一人目当てが増えてほくほくしている。
  *
一方、染五郎には心配になってしまう。
基本の姿勢がまったく出来ていないのは一体どういうことなのだろう。幼い頃から稽古をしているはずなのに‥‥。
腰が据わっていないから立ち居振る舞いがひょこひょこ/ずるずるしていて見ていられない。踊りの手の動きもすべてがだらりと流れてしまっている。この日森蘭丸を演じていたが、まるで匿流の少年を舞台に上げたようなひょこひょこ歩きで、信長の怒り買って切られてもおかしくない。
彼は顔は非常に美しい。台詞回しは上手いのだからもったいないし、それ故に立ち居振る舞いとのちぐはぐさがいっそう際立ってしまっている。
周囲に誰か苦言を呈せる人はいないのだろうか? 耳にやさしいことばかり聞かせているのでは、結局彼が一番かわいそうだと思うのだけれど。
  *
嬉しかったのは、歌舞伎座が満席だったこと。
コロナ禍の後しばらくは、歌舞伎好きの友人たちが「今日も空席多かった‥‥」とSNSでつぶやくのをよく目にしていたけれど、やはり「国宝」効果なのだろうか。何て素晴らしいことだろう!

この日の演目の中では、本能寺の変を題材にした「時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ)」が、序破急の構成で抜群に面白かった。私は初めて見る芝居だったけれど、作者を確かめると、鶴屋南北。やはり、と唸る。
この他にもあれこれ書きたいこともあるけれどキリがないので、まずは7年ぶりの歌舞伎を、ざっとこんな風に見たのだった。
(この日着たきものやお弁当などお芝居以外のことは、明日、別ポストにて)

内覧会の日のきもの 2026/07/16



こちらのポストでは、前回のポストでご紹介した内覧会の日のきものコーディネイトを。
雨がぱらつくとの予報だったため、たとえ泥跳ねしても自宅で洗える麻きもの、しかも黒地の一枚を択んだ。
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一緒に写っているのは、ご一緒した高石由美さん。現代アートキュレター、ライターとして活躍されていて、猫好き仲間でもある。一枚目の写真はフォトグラファーの阿部章仁さんが撮ってくださった。ルーシー・リーの初期作品と。
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きものは、マンガン絣で十字絣を表した「織田工房」の小千谷縮。
帯は星野利光さんによる越後上布の無地名古屋を合わせて。
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このコーディネイトの肝は帯締めで、「道明」の格子模様の一枚高麗を択んだのは、この日の展覧会の作家、山田正亮の格子の抽象画とのつながりを意識して(鼻息荒い)。
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バッグは洋服のブランド「エバゴス」の定番かごバッグ(上の写真で持っているもの)。コロンとした形がかわいい。履物は「四谷三栄」の科布草履。
何とか雨に降られずに帰宅出来た。

二つの展覧会内覧会へ 2026/07/14



先々週、白金へ。庭園美術館「ルーシー・リー」展と畠山美術館「茶道具と銘をめぐる物語∔抽象美への招待 静謐なる山田正亮」展、二つの美術館の内覧会に伺った。
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庭園美術館の「ルーシー・リー」展は、アール・デコ建築の本館と現代建築の新館をともに使い、特に本館では、歴史的建造物という環境の中でルーシー・リーの作品を楽しめる。
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日本で非常に人気の高いルーシー・リー(私も大好き)。
一目で「ルーシー・リーだ!」と分かる簡潔にして優美な個性を保ちながら、実は彼女が常に新しい技法に挑戦し、微細に作風を変化させていたことが、代表作を網羅した展示構成でよく理解出来る。必見の展覧会だろう。
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畠山美術館は、昨秋リニューアル開館して、やはり現代建築の新館が追加された。
設計は杉本博司氏+榊田倫之氏の新素材研究所。たとえば二館をつなぐ渡り廊下が美しい。
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畠山と言うと、日本美術好きにとっては、茶道具を中心に名品を所蔵していてなじみ深かった。しかしリニューアル後は、本館での古美術展と新館での現代美術展を、同時に、しかも共鳴し合う内容で開催するという意欲的な取り組みを行っている。
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今回、本館では、「銘」の妙から茶道具を見つめるという展覧会。
たとえば上の写真2枚目は、瓢箪を使用した桃山時代の花入。「木菟(みみずく)」の銘がついていて、確かに木にとまるみみずくに見えて来る。数寄者独特のユーモアの典型的作品である。
長次郎の灰器、夏にふさわしい薄手の茶碗など名品が揃い、鈴木其一による破格の画面構成のひまわりの一幅に、「ああ、其一は江戸が終わること、明治維新がやって来ることを芸術家の鋭さで予感していたのではないだろうか」などと思ったり。
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そして、新館では、現代日本抽象画を代表する作家、山田正亮の回顧展が。
抜群の色彩感覚で構成されたストライプと格子の、静かな美しさ。
やがてそれがより明るい色彩の抽象画に変わり、最後には、ただ一色の方形へ。
ルーシー・リー展と同様、作風の変化を、それもほとんど個人蔵の一級品でたどっているため、今回を逃すと二度と見られない作品も多いだろう。こちらもぜひ行くべき展覧会。
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面白かったのは、学芸課長の水田氏が仰っていたこと。茶道具を見た後すぐその目で山田の作品を見つめると、油絵の重なりも不思議と立体的に見えて来る。絵画も三次元である、と。
本当にその通りで、これは畠山のこの展示構成でしか実感出来ない体験だと思う。
そして、本館で展示されていた乾山や織部の陶器の格子模様が山田正亮の格子と重なって来る。
ぜひこの時空を超える共鳴を体験してほしい。
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庭園美術館も畠山美術館も庭が広々と美しい。美術に触れて、庭で涼み、そしてまた美術へ、庭へという白金散歩の一日をどうぞ。