西端真矢

ARCHIVE:

「梅雨が怖い + ジャ・ジャンクー監督インタビュー翻訳」 2010/07/07



目が覚めると、雨が降っていた。雨はもう三日も東京の街に降り続き、京子は起き上がると窓に頬を近づけて、昨日と変わらない分厚い灰色の雲を眺めた‥
‥といった風に、凡庸に始まる小説が好きだ。小説の始まり方は凡庸であればあるほど良いと思っている私だけれど、梅雨のことは年々激しく憎むようになっている。小説家が読者の予想に反して物語を突然終わらせることがあるように、何とか今年の梅雨を早めに終わらせることは出来ないのだろうか?

‥と言った文学風の前置きは良いとして(何のためにこんなことをやっているのか自分でも分からない)、よく、母に、冗談で「あなたってロボットなんじゃない?」と言われる。30度を越える真夏の日にもめったに冷房を使わず、扇風機だけで暮らしているからだ。
「暑ければ、手と足と首にちょっとだけ水を掛ければ、すぐ涼しくなるよ」などと言って、「江戸時代の人みたい」とも笑われている。夜眠るときもこの数年、冷房を使ったことがない。
では、だからと言って寒がりかと言うと、実はそういう訳でもない。
北京に留学していたときなどすぐにあの町の厳寒の冬に慣れてしまい、ミニスカートで街を歩き回っていた。「こんなに薄着の日本人を初めて見た!」と何人もの中国人に目を丸くされたほどだ。暑さにも寒さにも強い、鋼鉄のロボットのような私なのだ。
‥けれど、湿気には‥湿気にはめっぽう弱い。それから「季節の変わり目」という、毎日の天気が安定しない時期にも、真夏や真冬とは別人のようにしょんぼりしてしまう。今日は晴れ。でも明日は大雨。そういう短いスパンで気圧がくるくる動く変化の季節に、体がついていかないのだ。

‥そんな訳で、毎年、3月・7月・10月は危険な季節だ。私の場合体調不良になると、肩の辺りの血が回らなくなってしまう。それはつまり頭に血が行かなくなるということだから、頭痛と倦怠感が延々と続くことになる。過去には何回か、激しいめまいに見舞われて救急に運ばれたことさえある。その度に脳のCTスキャンを撮るけれど、いつも異常はない。要するに、肩と首辺りの血行不良なのだ。
‥そんな私だけれど、今年はちょっと様子が違っている。相変わらずぼんやりと頭痛が続いているものの、更に新たな症状まで加わってしまったのだ。何かと言うと、(ご飯を食べている人がいたらごめんなさい)それは、「手足のぽつぽつ」という悩ましい症状だ。
「じんましん」と呼べるほど、大きな発疹でもない。本当に小さなぽつぽつとしたふくらみが、最初は腕から、やがて足へ、どんどんどんどんと広がってしまった。一か所が治まって来たかと思うとまた違う場所に現れ、そこが治まって来たかと思うとまた最初の場所にぽつぽつが戻る‥そんな状態が、もう2週間近く続いている。
なるべく化学物質の薬を飲みたくない私だけれど、たまらずに皮膚科へ駈け込んでみた(何しろぽつぽつは見た目が非常に気持ち悪いので)。ところがお医者様は、「こういうのはね、原因は医者にも分からないんですよ」と言う。「梅雨の時期には時々、同じような症状の方がいらっしゃいますよ。皆さんどうしても体調を崩されてしまうのでね」‥と、どうやら私もその典型のようで、だましだましつき合って行くしか方法はないらしいのだ。

‥そんな訳で、発疹が一番広範囲に広がっていた3日間だけ飲み薬を服用したものの、後は塗り薬を頂いて、まさにだましだまし過ごしている。飲み薬が強過ぎて、その3日間は1日中頭がかすみ、ぐったりと廃人状態。仕事の原稿も大幅に遅れてしまったため、もう金輪際、薬は飲まないと決めた。塗り薬を塗れば1日程度でぷつぷつは消えてくれるから、何とか梅雨の終わりまで、出て来た発疹をもぐら叩きのようにつぶして、やり過ごしていこうと思う。それも目立つ所だけにして、服で見えない部分にはなるべく塗りたくはない。
だって、体のバランスが崩れているから、毒素を出そうとして皮膚の表面にぶつぶつが出来るのだ。それをむりやり人工の化学物質で押さえつけるのは、決して良いことではないと思う。あくまで見た人に不快感を与えないように‥そのためだけに薬を使いたい。

それにしても、本当に梅雨はつらい。あと一体何日、今年の梅雨は続くのだろうか?何とか体のバランスを少しでも整えようと、発疹が出始めて以来野菜を多めに食べるようにしているけれど、付け焼き場過ぎて今年の梅雨にはまだ効果は出ないだろう。
それでもこの体調不良に、何か新しい対策を立てずにはいられない。ちょうどいいことに、イタリア人と結婚して、14年間ミラノに住んでいた私の一番の幼馴染・Tちゃんが、この春から夫と双子の子どもともども日本移住を決意。うちの一軒隣りにある彼女の実家に引き移って来たので、時間を合わせて夜に二人でジョギングをすることにした。これもすぐには効果が出ないだろうけれど、来年の梅雨、或いは、今年の夏から秋への変わり目の時期に、助けになることを期待したい。
西洋医学は、「何何病」と、病名がハッキリしているものにはそれなりに効果があるけれど、謎の頭痛や謎の発疹、身体のバランスから来る問題にはほとんど無力と言っても良いのではないだろうか。地道に体を整えて、「気圧」という、地球規模の大きな敵と戦うしかないのだ。それにしても今日も頭が痛い‥

         *

‥と言いながら、ついつい、一番手頃なネットばかり見て時間を過ごしてしまう毎日なのだが、そんな中で、面白いインタビューにも出会うことになった。今、世界で最もホットな映画監督の一人、中国のジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督の最新作にまつわるインタビュー記事を見つけたのだ。

ちょうど頭が痛くて真面目な仕事原稿を書くのが難しかったので、ついつい手ずさみに訳してみてしまった。mixi内の「ジャ・ジャンクー監督コミュニティ」に掲載してみたところ、なかなか反応も良かったので、ここにも掲載しておこうと思う。
まず、元のインタビュー記事はこちら↓
http://ent.cn.yahoo.com/10-07-/352/2ag8l.html
それから、新作『海上伝奇』の予告編youtubeはここに↓
http://www.youtube.com/watch?v=ujGaocNjJQY
          *

(以下、インタビュー記事の抄訳。ところどころ()付きで私のつぶやきも挿入しています)

ジャ・ジャンクー監督の最新作『海上伝奇』は、上海の100年をつづるドキュメンタリー映画。
八十人以上に及ぶ上海現代史に関わる人物に取材を行い、
そのうち十八人が今回の作品に登場します。
その中には、蒋介石の最後の警護隊長を務めた人物、
初期の共産党運動に関わり、国民党側の特務組織・軍統から暗殺された人物の娘、
オールド上海の闇社会の支配者・杜月笙の娘が語る一家のその後、
そして、現在の中国言論を代表する若手作家・韓寒などが含まれているとのこと。
(杜月笙の娘が出て来るとは何ともすごいですね!)

特に韓寒は、監督にとって、今の上海の思潮・気分を代表する人物。
「理性的で、現実的でありながら、だからといって理想を失っている訳でもない。
彼こそ現在の上海を代表する人物であり、未来の上海を代表する人物でもある」とのことです。

また、取材した八十人が語った上海にまつわるエピソードはどれも非常に深い内容を持っているので、
昨年末にはテレビ用に別のドキュメンタリー番組を一本作り、
今後は取材内容を基にして、本も書く予定とのこと。
「こうすれば、この豊かな素材を無駄にしないで済むからね」
とジャ監督は言っています。

この作品の制作費の3分の2は、
海外に上映権を売ることにより既に回収出来ているので、
中国国内での興行収入は気にしないでも良いとのこと。
このところ、ジャ監督を含む第六世代の監督に対して、
「自己満足的だ」といった批判が出ていることについては、
この10年間の中国映画は「いくら稼いだ」ということばかりが話題になるが、
「中国映画の面目を保った」ということになれば、
第六世代がいなかったら一体どうなっていただろう? 」と反論しています。
(確かにその通り!)
「僕は僕ら第六世代の活動に誇りを持っているし、
人々は僕らがどんなにか苦境に立っているだろうといらぬ想像をしているようだけど、
みんなとても楽しく暮らしているよ!」とのこと。

今後、9月からは初の商業映画となる『大清朝』の撮影を開始。
その後は、何と!!!マギー・チャンと共に『双雄会』を撮るそうです。

続々と上映されるだろうジャ監督の新作を楽しみに待ちたいですね。

          *

youtubeの予告編を見ると、色はジャ監督独特の彩度を下げたシアン系(青)系・ブルー(紫)系の色。内容は、上海現代史好きにはたまらない、複雑な重層的なドキュメンタリーとなっているようで、一刻も早く観たくてたまらなくなる。一体いつ日本で公開されるのだろうか?
しかもよくよく見てみると、登場人物の中に『欲望の翼』でレスリーの義母役を演じた強烈な存在感の女優・潘迪華(レベッカ・パン)もいるではないか!この人選、何とも唸らされる。
世界のアート映画のトップを走るジャ監督が、世界の新たな中心地、上海を撮ったドキュメンタリー映画。早く観たくて、焦急等待!=居ても立ってもいられなくなってしまう!