西端真矢

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「日記も書けない忙しさ」 2010/08/25



毎日猛烈な残暑が続くこの頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。
私は一歩も吉祥寺を出ることなく、来る日も来る日も或る書籍の原稿を書いています。
浅学非才の私ですが、こんな私の日記を楽しみにして下さっている方々がいらっしゃること、本当にありがたく思っています。この一月ほど更新が滞っていて誠に申し訳ありません。

高倉健風に、「自分、不器用な人間なので‥」と言ってしまうと、中年太りをメタボと、穀つぶしをニートと、売春を援助交際と言い換えることで真実の直視から逃れようとするやわな平成日本人そのままになってしまうので、「自分、不器用なので」とは申しません。要するに頭が悪いので、一つ長いものを書いていると、他にもう一つ長い文章を書くことが難しいのです。そのため、日記の更新が長きに亘って滞っていますこと、お詫び致します。

原稿は、おそらくあと2週間以内には脱稿出来る見込みです。それまでは、ひたすら、妄想着物コーディネートと、「この仕事が終わったらあの本読もう!」リスト作りと、「中国行こうかな~」願望で自分を励ましつつ、この座敷牢状況を乗り切ろうと思います。2週間、あっと言う間のハズであります!

ちなみに、「この仕事が終わったら読みたい本リスト」を、下記にコピペして今日の日記を終わりたいと思います。実は、今の仕事のための関連書籍があまりにも膨大なため、昨秋から、ほとんどそれ以外の本を読めていないのです。精神的にもう限界に近づいています。あと2週間、歯を食いしばって頑張ります。私の夏。

今の仕事が終わったら読みたい本リスト

『秀吉と利休』 野上弥生子
『敗北を抱きしめて』 ジョン・ダワー
『思想課題としてのアジア』 山室信一
『もめん随筆』 森田たま
『あしたも着物日和』 近藤ようこ(友人のR子が貸してくれる予定☆)
『古都』 川端康成
『前方後円墳の世界』 広瀬和雄
『女中記』 『ちいさいおうち』 中島京子
『私小説論』小林秀雄
『蒼穹の昴』 『中原の虹』 浅田次郎(今の編集者が「とにかく読んで下さい!めちゃくちゃ面白いです」とあまりにも薦めるので、そろそろ読もうかのう‥)
『時間』 吉田健一
『吉原花魁日記』 森光子
『虐殺器官』 『ハーモニー』 伊藤計劃
『全体主義』 エンツォ・トラベルソ
『野火』 大岡昇平(実はちゃんと読んだことない‥)
『「いき」の構造』 九鬼周造(これも実はちゃんと読んだことない‥)

あとは、ずーっと勉強を続けております昭和戦争史本の数々

『戦前・戦後八十年』 賀屋興宣
『周仏海日記』 周仏海(この本は1年以上かけて精読している最中だったのに、今の仕事が入り中断。早く再開したい)
『漢奸裁判史』 益井康一
『昭和金融恐慌史』 高橋亀吉
『昭和恐慌と経済政策』 中村隆英
『語りつぐ昭和史1-3』 賀屋興宣など(ネット古本屋から全巻入手したものの、まだ読めていない‥)
『中国における日本租界』 大里浩秋
『戦時上海1937-45年』 高網博文
『日本軍政下のアジア―大東亜共栄圏と軍票』 小林英夫
『支那事変の回想』 今井武夫
『開戦前夜の近衛内閣』 尾崎秀実  などなどなど無数に続く

あ、そうそう、宇野千代先生の『生きて行く私』、これも読みたいのです。
生きて行く、私‥

「真夏の幽閉生活日記」 2010/08/04



7月某日
また仕事を断る。今取り組んでいる或る本の原稿執筆が、諸事情により、とんでもないスケジュールで・とんでもなく難しい内容を・とんでもない分量でこなさなければならなくなり、9月半ばまで一切他の仕事を入れることが出来ない。
断る相手の方や、ごく親しい友人にだけ、今、どれだけタイトなスケジュールで・どれだけ複雑な内容を・どれだけ大部の分量で書いているかを説明すると、全員が絶句する。超人的な努力で原稿に向かっている。
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(写真は、或る夜の私の机の左端。すぐ使う資料が積み重なっている。仕事の机は、7年前に特注した非常に細長いもの。大型のノートブックを置いて、資料を左側にばーっと広げ、右側にお菓子と紅茶のマグカップを置いても、まだ余裕がある長さ!)

7月某日
香港の友人Dにメールの返信を書く。もちろん中国語で。私の中国・香港・台湾の友人は何故か皆筆マメの人ばかりで、たくさんメールが来るし、返信を書くとすぐにまた次の返信が届く。私にとって、中国語の文章は日本語で書くよりやっぱりまだ手間かかるから、どうしても返信は遅れがちになる。いつも“中国語メール債務超過状態”。
それでも、最近のように毎日毎日日本語と格闘しているときには、たまに中国語の文章を書くのはすごく良い気分転換になる。喩えて言えば、何時間も何時間も根を詰めて縫い物をしていた手を、くるくる回して前、後ろに伸ばし、指を一、二、三と開いたり閉じたりしているようなかんじ。脳がほっと一息ついているのを感じる。朋友信很意外地具有頭脳健康効能呢!(友だちからのメールに意外な効果が!)

7月某日
仕事の資料になる本を、「日本の古本屋」サイトで発見した。所蔵しているのは、北九州の古本屋さん。「アマゾン」にも同じ本を売っている店はあったけれど、敢えて「日本の古本屋」を通じて取り寄せることにした。
古本を買うことが多い私は、以前はよく「アマゾン」を利用していた。でも、カード会社からの請求書を見ると、代金(=手数料)はアメリカの口座に振り込まれている。日本語の本を買うのにアメリカ企業を富ませてどうする!最近は専ら「日本の古本屋」を利用している。

7月某日
友人が吉祥寺に出て来てくれて、お茶をする。忙しいとは言え、毎日家にこもっていては鬱病になってしまうので、時々、吉祥寺まで出て来てくれるやさしい友人と、ごく短い時間だけお茶か食事を取るようにしている。
その日の話題の中心は、「私が出会った怖いストーカーの話」。私も友人も何故かストーカー・ミザリー系の人につきまとわれやすい体質で、お互いのビックリ体験を披露。
私は特に、私のブログや写真作品を見て、「マヤさんと自分は大の仲良し」妄想、「マヤさんに自分の意見を絶対認めさせる」妄想、「マヤさんに自分の身の上話を聞いてもらう」妄想、「マヤさんに自分の写真を撮ってもらう」妄想(しかもタダで‥苦笑)にとり憑かれる人が多く、体験談は実に豊富。人の心の壊れやすさに思いを馳せる。

7月某日
原稿がなかなか進まないときに思うこと。
「あーあ、小人が出て来て、代わりに書いてくれないかナー」
これは子どもの頃に読んだ絵本、『こびとのくつやさん』の影響。
もう一つ思うのは、
「あーあ、ドラえもんが家にいたらなあ。“すらすら書ける”(大山のぶ代の声で)を出してくれるのに!」
三つ子の魂百まで、という諺は本当だ。子どもの頃に読んだものは人の思考法を、こんなにも長い時間支配する。
(ちなみに“すらすら書ける”は私が妄想した道具!)

7月某日
今書いている本の打ち合わせで、電車に乗って出版社へ向かう。
「娑婆に出たな」
と思う。

7月某日
ツイッタ―はやっていないけど、原稿が進まないときに知り合いのツイッタ―を読むのは、楽しい息抜き。
それにしても、「今どこどこにいます」「今帰宅する道でどうのこうの」「今家で何何をしています」と、一日中ツイッタ―に書き続ける人には心底呆れかえってしまう。そういう人は、「あー今この人、こういう精神状態なんだな」と分かる書き込みも多くて、こんなに自分を丸見えにさらけ出されると、男性でも女性でも、神秘性も何もあったものじゃない。
第一、こういう人とつき合ったら、「これから彼女と鎌倉ですなう☆」「ダーリンにバカって言われたーーー泣」などと全部書かれそうで、寒気がして来ないだろうか?
‥という意見を某男性に提出してみたところ、「ね、一体何のプレイなんだろうって思うよ」と言っていた。女子の皆さん、ツイッターのやり過ぎには気をつけましょう。

7月某日
骨の髄まで夜型人間なので、原稿は24時を過ぎるとガゼン調子が出て来る。どこまでもどこまでもバイクで風を切って高速を飛ばすように(実はバイク乗れないけど)、文章が頭の中から湧き出て来て区切りの良いところまでたどり着くと朝5時頃になっていることが多い。一旦筆を止めても頭の興奮はすぐには治まらないから、クールダウンさせるために早朝の街を走る。
戦後民主主義の良識の街、我が武蔵野市では、朝5時にジョギングや犬の散歩をしている人は結構多い。皆アディダスのTシャツなど着てi-Podミニを聴きながら、静かな住宅街を向こうから進んで来る。
「お、早起きの健康的な女性が来たな」
と、すれ違うとき彼らは私のことを思うのだろうけど、
「実は一睡もしてないんでーす!」
「これからお風呂に入って寝るんでーす!」
と、心の中で一人つぶやいている。日が完全に昇る少し前に私の一日が終わる。

7月某日
深夜、原稿が書けないので、気分転換に帯結びの練習を始めてみる。しかし、襦袢や着物を着ると大事になるので、部屋着の上にそのまま結ぶことにする。
‥結果、帯結びは完成したものの、Tシャツ地のミニワンピの上に、鳳凰文様を織り込んだ重厚なお太鼓結びが‥。あまりに珍妙な姿に、一人爆笑。やっぱり明日からは着物を着て練習しよう。

7月某日
猫の誕生日。我が家の白猫、チャミは、今年で二歳。杉並を中心に活動している捨て猫ボランティアさんから、生後二か月のときに斡旋してもらった猫だ。
我が家に来たとき、チャミはまだ12、3センチくらいの身長だった。鼻が長くて頬が落ち窪んでいて、第一印象は、「あんまりかわいくない‥」。何だか貧乏神みたいな顔をした猫だったのだけど、いたずら好きで思いもかけないようなことばかりしでかすので、みんなできゃーきゃーかわいがっているうちにだんだん顔がかわいくなってしまった。今では身長も45センチ(推定)と立派に成長。かなり大猫の部類に入ると思う。
今年の夏は、私がずっと家にいるので、チャミは相当に嬉しいはずだ。チャミが嫌いなのは、お客さんとお留守番。好きなものは、にぼしとガーゼの布団と家族!チャミ、ずっと長生きしてネ。
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(或る日のチャミ。暗くて狭い場所も大好き)

7月某日
海老蔵の結婚式速報をネットでチェックする。「豪華な結婚式に憧れて‥」な訳ではもちろんなく(よくあんなこっ恥ずかしいこと出来る!)、目的は、招待客のお着物チェック!ドン小西のように鋭い目つきで次々と画像をクリック、着物のゲストだけを拡大表示する。
結果、大賞は林真理子の着物。
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白地に藍色の、茶屋辻紋様だろうか?現代風であり古典的でもあり、すごく素敵だと思う。


7月某日
虹を見た。
朝5時まで原稿を書いていて、寝る前に2キロくらい家の周りを走ったとき、ふと顔を上げると道の向こうに虹が出ていた。
たぶん、草原の真ん中で虹を見てもそれほどは驚かないのだろうけど、住宅街の屋根がどこまでもどこまでも続いているその向こうに虹の橋が建っていると、ほとんど奇跡のように感じる。
「見て!虹が出てますよ」
ちょうど向こうから初老のご夫婦がやって来たので、声を掛けてみる。しばらく三人で呆然と空を見上げていても、虹はいっこうに消える気配がない。
「いいもの見せてもらった」
と、おじいさんが呟く。やがてご夫婦は別の曲がり角へ、私は虹に向かって走ってみる。夏が一日一日と私の横を過ぎて行く。