西端真矢

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一泊二日きもので名古屋旅行 2014/11/27



先週末は、一泊二日で名古屋へ旅に出ていました。持って行ったのは、きもの一枚に、帯二本。コーディネイトご紹介日記です。

一日目は半幅で

名古屋一日目は、半幅帯で過ごしました。
朝早くの新幹線で名古屋へ向かい、着いたその足で学術シンポジウムに出席…というスケジュールだったため、帯を替える時間は無し。新幹線の2時間ほどをお太鼓で過ごすのはつらいので、半幅帯を選択しました。そのコーディネイトがこちらです↓
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こちらの帯は、博多織で唐草紋を織り出したもの。後ろの写真は撮っていないのですが、カルタ結びで結んでいます。
学術シンポジウム出席というシチュエーションを考えると少しきちんと感が必要と思い、半幅ではありますが帯〆を入れて。きものと帯を同系統でまとめた中、同じ同系統ながら効かせ色になる、明るめの辛子色の冠組を選びました。

この日出席していたのは、「対日協力政権とその周辺」というシンポジウムです。愛知大学名古屋キャンパスで開かれていました↓
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最近は染織や和文化関係のお仕事が多い私なのですが、それだけではなく、「倫理学」の領域に関すること――人が或る特定の状況に置かれた時に、どのような選択をするべきなのか、その可能性を深く思考する――そんな大きなテーマを持った文章作品を書いて行きたいと思っています。
幾つか具体的なテーマを定めており、その一つでは日中戦争期を舞台に置くことを考えているため、実は、何年もこつこつとこの時代の資料を読み込んでいます。この日のシンポジウムは、その勉強の一環。これまでの過程で知己を得た気鋭の現代史研究者の方のご厚意により、参加させて頂きました。
シンポジウムの後は、その研究者の方や他の気鋭の研究者の方々とのお食事会も楽しく、また、深い学びがあり、充実の名古屋一日目だったのでした。

二日目は、染め名古屋帯で

二日目は、「名古屋ですもの、名古屋帯で」…という訳でもないのですが、祖母が染めた名古屋帯で過ごしました。
この日のスケジュールは、前日とは打って変わり、戦国~江戸時代こってり。朝から、熱田神宮(信長が奉納した塀!)→名古屋城→尾張東照宮→徳川園庭園→徳川美術館と、盛りだくさんに詰め込み過ぎて、お昼ごはんも、名古屋らしいこってりスイーツも食べ逃したのは残念でしたが、充実の一日でした。例えば…

大名文化好き・大奥文化好きにはたまらない、復元された名古屋城本丸御殿・上段の間!!!↓
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また、お城の外では菊展が開かれていて、豪華なものから小ぶりで美しい盆栽のような作品ものまで、眺めるのが楽しい!↓
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この菊展を見ている時、いつも私のブログを見てくださっているという熊本の方からお声を掛けて頂きました。今日のこのエントリも見てくださっているでしょうか?ありがとうございます。とても励みになります♪
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↑この日のコーディネイトは、こちら。
背景に写っているのは、名古屋市北部にある「徳川園」の庭園です。御三家筆頭の尾張徳川家の別邸を、公園として開放している場所です。

締めているのは、祖母が染めた紺地の名古屋帯。型は紅型の有名な型で、「きもの検定」の教科書にも、この型を別の色合いで染めた帯が載っています。
その帯に、ちょっと写真が小さくて分かりにくいのが恐縮なのですが、水色地に白と水色の矢羽模様の笹波組帯〆、お抹茶色の帯揚げを挿し色にした取り合わせです。

          *

この「徳川園」と同じ敷地にある「徳川美術館」では、現在、「大名家のおしゃれ」展が開催されています。姫君が着用した打掛や、尾張徳川家殿様の直垂など、貴重な展示が満載ですので、服飾史好きの方はゼヒ足を運んでみてください。
かく言う私は、服飾史の中でも特に大奥ファッションに興味を持っていて個人的に勉強しているので、「なが(行事の際に地位の高い奥女中が使うかつら)」と「絵元結(ながに付ける、金箔押しの豪華な髪飾り)」の実物を見ることが出来、大興奮していました(←おたくっぽいですね)。
また、実は直垂萌え♡(←腐女子っぽいですね)なので、御三家の立派な直垂を見られて、これもまた大興奮でありました。あまりに長時間会場を行ったり来たりしたため、見張り係の人が若干呆れている、その視線が痛かったです…。

          *

実は、この後、デパートのお手洗いで帯を早替えして、再度半幅帯に変えて帰りの新幹線に乗りました。半幅のかるた結びなら、2分もあれば結べてしまいますから、本当に便利です。旅の移動は半幅帯!ですよね。
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「美しいキモノ」本日発売、3企画担当しました! 2014/11/20



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本日発売になりました「美しいキモノ」2014年冬号にて、3企画を担当致しましたのでご報告の日記です!

担当企画1)帯〆BOOK

まず一企画目は…何と、帯〆だけで16ページ!めくってもめくっても帯〆と組紐の話題が載っているBOOK in BOOK、「帯〆BOOK」です!

その内容を駆け足でご紹介すると…

Part1「帯〆の歴史」では、「道明」当主夫人にして文化学園大学名誉教授(服飾・染織史)であられる道明三保子先生による、帯〆と組紐の歴史解説を、4ページ!
これまで、帯〆が登場したのは文化14(1817)年、亀戸天神の太鼓橋の渡り初めに深川芸者がお太鼓橋をかたどった“お太鼓結び”を発明して登場。それ以来帯〆を締めるようになった…と言われて来ましたが、そうじゃなかったんです!ということが分かったりします。
服飾史好きの方、必読ですよ!

Part2「きもの別帯〆コーディネイト術」では、4ページにわたり、帯〆を中心としたコーディネイトをご提案します。
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上の写真でもお分かり頂ける通り、帯〆にぐっと寄った写真が付き、帯との関係性がよく分かるレイアウト。かなり画期的ではないかと思います。
登場する帯〆は、総て、道明の逸品ばかり。道明三保子先生がコーディネイトされました。
この10年ばかり、きものは、シンプルスタイルが流行。帯〆も、単色無地のものをすっと入れるスタイルが多かったと思いますが、今回ご紹介する20コーディネイトでは、何と、無地は一本も使っていません!
そう、「単色無地帯〆で、無難に」ではなく、多色の配色で組んだ帯〆を置くことで、ぐっと複雑で面白みのある、突然武士になって「おぬし、やるな」と言いたくなるような“一枚上手のコーディネイト”が誕生します。
「この帯ときものに、この配色の帯〆かー!」
と目から鱗のコーディネイトが続々ですので、皆さまゼヒ目を凝らしてご覧ください。

Part3は「帯〆図鑑」です!
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帯〆に使われることの多い組み方を、その由来や組み法とともに解説。
また、正倉院や厳島神社、中尊寺など数々の歴史的名品組紐の復元を手掛けて来た「道明」が、その技術を帯〆に応用したシリーズも、由来や組み方と共に解説。おきもの好き同士で集まった際、すっと「**組の帯〆ね」なんて言えたらちょっと素敵ですよね。ゼヒこちらも熟読ください。

Part4は「代表的な作り手を取材しました」、そう、工房訪問ページです。
日本を代表する帯〆ブランド3社、「道明」「龍工房」「渡敬」(アイウエオ順)の工房を訪ね、皆さんも何となく耳にされたことがあるでしょうか、丸台、角台、高台、綾竹台、内記台という五つの台で帯〆を制作する過程をご紹介します。

最後、Part5は「男性の羽織紐のおしゃれ」と「遊び心のある房あれこれ」。
「龍工房」の福田隆さんが、江戸っ子が好む粋な羽織紐の結び方を伝授してくださいます。これからは歌舞伎座周辺などで、「ん、あの方、粋な結び方をしてるわね」とチェック可能に!
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「遊び心の房のあれこれ」は、今までこんな企画なかった!な超豆知識系コラムです。
撚り房、小田巻房、いちご房、輪房、四本原という五つの変わり房の作り方を「渡敬」に取材。これはかなりなきもの通の方でもご存じない情報だと思います。ゼヒご覧になって下さいね♪

…と、盛りだくさんの「帯〆BOOK」だけではなく、もちろん、連載の「お仕立てのツボ」も掲載されています。

担当企画2)連載「お仕立てのツボ」

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今号は、読者の皆様からいただいたご質問に「竹田和裁研究所」の講師陣がお答えする、お仕立てQ&A特集です。
「雨コートの前合わせがどうもぶかぶかしてしまうんですが、対処法は?」
といった正統派な質問はもちろんのこと、
「ぶっちゃけ、手縫いとミシン縫いの差って何なのでしょう?随分金額がちがいますけど!」
といった、ちょっと意地悪目線、ぶっちゃけ系の質問も!こちらもゼヒ皆さんのきものライフの参考にして頂ければと思います。いつものように、岡田知子さんのかわいらしいイラストと共にお送りします!

担当企画3)歌手・川中美幸さんのおきものを取材、「きものマイスタイル」

そしてそして、三つめの担当ページは、今号、拡大版でお届けする人気連載「きものマイスタイル」。演歌歌手・川中美幸さんのおきものを取材しました。
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上の写真からも、そのゴージャスさ、美しさ、そして楽しさが伝わって来るのではないかと思います。
全3ページにわたって(注*実はあともう1ページあるのです。それはご購入なさってご確認くださいね♪)、心からきものを愛し、一枚一枚、こだわりを持って作られた川中さんのおきものを四枚、帯を六本ご紹介しています。一作品一作品、川中さんのこだわりがぎっしり詰まった、名工の手による逸品ばかり。見ごたえ、読みごたえたっぷりです。ゼヒお楽しみになさってください。
そうそう、取材でお会いした川中さんは、若輩の私がこんなことを申すのは僭越かも知れませんが、とてもチャーミングな方でした。そして、本当にきものを愛していらっしゃるお気持ちもじわじわと伝わって来て…皆さん、これからはテレビで川中さんのおきものを見かけたら要チェックですよ!

…と、総て、夏の終わりから秋のはじめにかけて心血をそそいだページばかりです。
皆様、良かったらゼヒ書店で、電子書籍で、ご高覧下さいね。
裏エピソードを一つお話しすれば、「帯〆BOOK」のためにあまりにも毎日毎日組紐の資料と首っ引きで組紐のことを考え続けたため、最後、原稿を書いている頃には、家中のものが組紐に見えて来るというマジカルゾーンに突入してしまいました。
格子柄のブランケットを見れば、“安田組”(いやいや織物だから…)。何と、最後には愛猫チャミのしっぽを見て、「これは…“鎌倉組”ね」と思う始末。
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上の写真がそのチャミのしっぽを撮ったものなのですが、何ていうことのない雑種猫のため、黒いしっぽのところどころに白い毛が混じっていて、ちょっと鎌倉組風なのですよ!…って、「鎌倉組ってどんな組だっけ?」と思った皆さま、ゼヒ「帯〆BOOK」でご確認くださいませ!

       *

もちろん、私が担当したページの他にも、「結城紬紀行」「京都・加賀・東京 三都友禅」「年末年始お出掛けきもの」など、読みごたえたっぷりです。
「美しいキモノ」2014年冬号、ゼヒご覧ください!
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ジャパン・ブルーが生まれる場所――徳島の藍職人・佐藤昭人さんを訪ねて 2014/11/19



 週末、徳島へ旅に出ていた。(と、今回、機内誌の旅行記風文体で行きたいと思います)
 と言っても、ただの旅行ではなく、自分の勉強を兼ねたもの。日本の染織に詳しい方なら、徳島、つまり阿波地方が、江戸時代以来の藍の産地であることはご存知だと思う。
 藍の葉を加工した“蒅(すくも)”や、蒅を固めた“藍玉”は長く阿波の国の特産物であり、日本中に出荷されて人々のきものや布団地や手拭いや…あらゆるものを藍色に染め上げていた。庶民から高位の武士に至るまで、江戸時代を通じて藍色は人々の衣服の最も基本的な色であり、現在では“ジャパン・ブルー”と呼ばれるほどに、その美しさが世界的に名高いことも、広く知られていると思う。

 では、その藍は、どうすれば染料として使えるようになるのだろう?
 自宅の庭で藍を育ててその葉をつぶしてみても、長い年月を耐え抜く堅牢度(=繰り返し洗濯しても色落ちしない耐用性)は持ち得ない。
 そう、夏、藍の葉を刈り取った後、気の遠くなるほどの複雑な過程を経て、藍は蒅(すくも)へと“成長”する。成長、とまるで人間の発育のように書いたのは、今回、実際に自分の目で見た後では、そうとしか表現出来なくなってしまったからだ。

 今回の旅では、徳島県板野郡の、その名も“藍住町”という町に住む日本一の蒅(すくも)職人、佐藤昭人さんの蒅製造所を訪ねた。佐藤さんはそもそも蒅の原料である藍の木を自らの手で育て、それどころか、その藍畑に足す堆肥作りまでをも自ら行っている。土を作り、藍を育て、その葉を蒅へと加工する――この佐藤さんの蒅作りの全過程を映像で記録するプロジェクトを現在友人が進めており、今回、その撮影に同行させてもらうことが出来たのだ。

          *

 さて、では、実際に一枚一枚の藍の葉は、どのようにして蒅(すくも)へと“成長”するのだろうか?
まずは下の写真を見てもらえたらと思う。
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 木造の、蔵のような場所に、土がこんもりと盛られている。その向こうにかがんでいる人。この人が藍師の佐藤昭人さんであり、そしてこの山が総て藍の葉から出来ていると知ったら、ちょっと気が遠くならないだろうか?

 毎年、8月、藍畑から刈り取られた藍の葉は、すぐに細かく切り刻まれて、しばらくの間寝かされる。その後、9月になると、佐藤さんと佐藤さんを手伝う近隣の農家の人々は、刈り取った葉に時折り打ち水をしながら、うず高く積み上げる。その高さはこの蔵――“寝床”と呼ばれる――の天井近くまで届くほどになるという。
化学に疎い私には細かいことは全く分からないのだけれど、積み上げる過程で掛ける打ち水と、藍の葉の成分、そして9月の気温、これらの要素が絡み合うことで、4、5日経つと発酵が始まる。つまり、腐らせることで、藍の葉は蒅(すくも)へと“成長”を始めるのだ。火は全く使っていないというのに、その温度は70度にもなるという。目を開けることが苦しいほどに強くアンモニア臭が立ち込め、藍の山は発酵によって次第に嵩(かさ)を下げて行く…

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 その藍の山を、藍師とその下で働く人たちは、4日ごとにかき混ぜる(1枚目の写真の左端に写っている人が佐藤さん)。つまりそれは漬物の糠床をかき回すのと同じ原理で、もちろん、漬物なら小さな甕の中をこねくり回せば済む話だけれど、腐って重さを持ち始めた藍の葉の山をかき回すのはとてつもない重労働を伴う作業だ。
 藍師を棟梁として、総勢十人ほどの男たちが鋤や熊手を手に、藍の山を掘り崩す。掘り崩すことによって藍は別の場所へと自然に移動し、更に、一通り掘り崩した後で元通りの形に成型する時に、また別の場所へと移動する。こうして糠床同様の“こねくり回し”作業が完遂される。
 
 藍師たちはこの作業を、延々と12月まで約100日間、4日ごとに繰り返す。
 4日ごとに山を壊して、また山に整える――壮大な砂遊びのようであり、その姿は何も知らない人から見れば、鉱山の鉱夫のようにも見えるだろう。この、激しい労働を伴う作業のことを、“切り返し”と呼ぶ。

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 上の2枚の写真は、その“切り返し”の始まりや途中途中で、佐藤さんが行う最も重要な作業を写したものだ。藍の山の中に手を突っ込み、一山ほどすくい上げて顔を寄せ、匂いをかいでいる――藍師以外の人間には決して窺い知ることの出来ない奥義がそこにはあり、藍が今どんな状態であるのか、元気なのかむずかっているのかを、かぎ分けているのだ。
 そして、気温、湿度、今現在の藍の状態――それら総ての条件を総合して、次に何をするのかを決める。水をどの程度打つのか?“布団”を何枚掛けるのか?
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 “布団”というのは、上の写真のように、藍の山の上に、その日の切り返し作業の終わりに掛けるむしろのことを言う。
 毎年、10月の半ば頃、渡り鳥の鴨が吉野川へやって来るのを見届けた時。それからもう一つ、近くの神社の横に立つ銀杏の木の葉がわずかに黄色に染まり始めた時を見逃さずに、佐藤さんは「今日から布団を掛ける」と判断する。これは、秋の深まりにつれて冷え込む外気から藍を守るための処置で、布団を掛けることによってその温度は9月初めと同じように、70度から65度の間に保たれる。その掛け方にも、何枚掛けるかにも、厳しく目を配り続ける。

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  例えば、私たちが訪れた日は、徳島地方の気温が急にひどく下がった日で、3枚の布団を掛けるよう佐藤さんは指示を出していた。もっと暖かな日ならきっと2枚だったのだろう。掛け始めの頃なら1枚しか掛けない。毎日毎日、気を配り、調整する。一日たりとも油断は出来ない。何故なら、気温を読み間違って布団が1枚少なかったために、藍が“風邪を引いて”水滴を吹き、死んでしまうこともあるから。
 そして、12月の10日頃、藍の山は最後に掘り崩されて、もう二度と山へと戻ることはない。藍は元服を迎えた青年のように蒅(すくも)へと成長し、藁袋に詰められて佐藤さんのもとから離れて行く。その時、佐藤さんの目から涙がこぼれてしまうのだと聞いて、私まで泣きそうになってしまった。

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 東京に帰ってからも、しばらく、藍の山の残像が浮かんでは消え浮かんでは消えて、まぶたから離れなかった。山はそのまま動き出し、こちらに向かって来るように見えた。まるで未知の生き物であるように。
 いや、藍の山は生き物なのだ。藍の葉から蒅(すくも)へと変態し、成分を変えて行く幼い生き物。もぞもぞと肢体を伸ばすそのうごめきが、近くに立っていると聞こえて来るようだった。半ば藍であり、半ば蒅であるその生き物は、早く蒅へと変態を終えたくて身をよじらせていた。非常に気が立ちやすく、少しのことで駄々をこねる、ひどく神経質で扱いにくい子ども。藍の山とはそんな存在であるように思う。けれど親である藍師は、どんなことがあってもその子を育て上げなければならない。蒅が袋に詰められて出荷されて行く時、佐藤さんが泣くのも当然だと思えた。

          *

 こうして藍師のもとを旅立った蒅(すくも)は、その後、染め師の手に渡り、灰汁(あく)と化合されることでもう一度変態を遂げ、布の上に定着する。
 その色、美しく深みを持ったジャパン・ブルー、日本の藍は、現在、きものや和雑貨だけではなくジーンズなど様々な布に染められて私たち消費者のもとに届けられる――もちろん、途中でかけられた深い愛情のことを藍は何も語りはしないのだけれど、私たち受け取る者は破れるまで、すり切れるまで、一かけらになる日まで育てた人と同じ深い愛情をもって、その命の最後の日まで、藍色の布を使い続けなければいけないのだと、旅を終えて、今、そんな風に思う。

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きものサローネ、最終日の昨日も行って来ました! 2014/11/14



きものサローネ、昨日も行ってまいりました。
平日・木曜日だというのに、たくさんの人出。大きく分けて、京都西陣エリアとその他のエリアに分かれていて、それぞれを力いっぱい見て回りました!
前回と同じく、それぞれのブース総てに足を止め、気になる出店者の方とはお話をして作り方やデザインの意図などをお聞きして。
本金引き箔の豪奢な袋帯から気軽な半幅、小物類、草履や刺繍技術、新概念の和装下着、前結び帯、全く安っぽくない、高級感あふれる洗えるきもの、そしてたくさんの「ほしい!」と声を上げたくなるきものや帯たち…何とも楽しい時間でした。
本当にたくさんの方とお話ししたのですが、下の写真は、京都の染織職人集団「杉達」の和泉明さんと。
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和泉さんは、本羅を織る西陣の職人さん。正倉院の羅布などを研究して、ご自身の作品に応用されています。

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↑こちらは、後で紹介致します今回のサローネの目玉「百人コーディネイト展」に出品されていた「杉達」のコーディネイト。型友禅の絽のお着物に、大和さんの羅の帯です。「杉達」には、友禅染め、型友禅、京絞りの職人さんが所属されています。Facebookにページがあるので見てみてくださいね。

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↑お隣りの丹後から出店の「小林染工房」のブースでは、珍しい、柿渋で染めた糸(写真に写っている茶色の糸玉がそれです)を使った織物が出品されていました。柿渋には防染効果があるため、そこだけ色が染まらず、模様を残すことが出来る…という非常にオリジナルな反物です。
まだまだ新しい織物って出て来るんだ!ととても感動しました。

こちらは江戸刺繍。東京都伝統工芸士の辻口良保さんが実演をされていました↓
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一枚目の写真は、刺繍をするための柄を切り抜いた薄紙。ここに、胡粉を掛けて布に付着させ、その上から刺繍して行くそうです。
二枚目が、刺繍の途中の様子。刺繍なら私にも出来るかな…とちょっと心惹かれたりして。
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↑そして心惹かれたついでに、名刺入れがへたって来ていたので、辻口さんの刺繍を施した名刺入れを購入しました。かなりカワイイでしょ♡

…と、もうその他たくさんの方とお話ししたりお品物を見たり。一緒にお写真撮れば良かった~!という方もたくさんですが、またの機会に。

最後に、先ほどちらっと書きました「百人百色 百人コーディネイト」の会場をご紹介します。
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↑会場の一部をバックに、マネキンに紛れ込んで写真を撮ってみましたが、こんな風に、各きもの店、スタイリスト、染織作家、着付け師などなどの方々が、それぞれのコーディネイトをマネキンに着付けて披露なさっています。
あ、ついでながら前に立っております私のコーディネイトは、金田昇さんの江戸小紋に祖母が染めた水色地に黄色とピンクで菊の花を染めた帯。ちょっと帯〆の色が強過ぎたかな、淡いピンク色の方にすれば良かったかな…と一人反省会中ですが、そんなことはいいとして…
こちらは、目白「花想容」の田中由起さんのコーディネイト↓
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帯にほどこされた孔雀の羽柄の刺繍を中心に、さわやかにまとめ上げています。

こちらは、スタイリストの大竹恵理子さんのコーディネイト↓
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染色家・中野光太郎さんのグレー、水色、淡紫が印象派の絵のように混じり合ったおきものを、同じトーンの中で優しくまとめています。このきものは相当人気高いそうですよ!

同じくスタイリストの坂元和子さんのコーディネイトは…↓
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丸山正さんの深めの色のおきものに、青海波を大胆に意匠化した帯。そして、帯〆が非常に効いていますよね。かっこいいです。

京都「多ち花」の河合洋平さんの配色にも目が引きつけられました(中央のコーディネイト)。能衣装から応用した色合いだとのことです↓
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ガラス作家小上馬香織さんは、自作の印象的な帯留を中心にしたモノトーンコーディネイトがかっこいい↓
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そんな中、アニメ?の萌えキャラを配したこんなおきものもありました↓
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題して「痛キモノ」と自ら言っている自虐センスがイイですね。まあ、このきものは絶対自分は着ませんが、ユーモアのセンスのある人って大好きです。しかもお隣りが正調なおきものであるところがよけい笑いを誘いますね…

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ここからは、私が個人的に特に心惹かれたコーディネイトを…

出雲の「まにわ呉服店」の馬庭里香さんのコーディネイト↓
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きもの、帯、帯〆、帯揚げの配色が、正にきものならでは。或いは、日本ならではと言ったら良いのでしょうか。私自身は青春時代をオリーブや渋カジ(なつかしい響き!)の影響下に過ごしてしまったので、どうしても洋服臭の強い取り合わせをしてしまいます。それがあまり楽しいとは、或いは新しいとは思えない。自分の中の日本人遺伝子をもっともっと掘り起こして、ごく自然にこういう取り合わせを出来る人になりたい!という夢が具現化されたコーディネイトでした。

同じ意味でこちらのコーディネイトもとても好きです。「東京友禅染め研究会」の名坂佳寿子さんによるコーディネイト↓
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すごく「買いたい!」と思ったのは、京都のしけ引き染めの松本輝之さん(工芸染織松寿苑)のこのおきもの。理屈抜きに、こういう色合いや、染料の布への乗せ方が好きなんです!↓
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打って変わりますが、こんな木綿紬にも心惹かれます!青戸柚美江さん作の麻の葉文様木綿紬。コーディネイトは「だるま屋呉服店」の山口貴子さん。帯留使いも素敵ですね↓
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こちらの手描き友禅作家中野スズミさんのおきものは、猫柄!猫好きにはたまらないかわいさ。ほしい!
私なら、淡い卵色とか、ベージュとか…そんな色に別注したいところです↓
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もう一つ、大好きなツボに入っているコーディネイトがこちら。京都の「岡文」さんの作品で、渋く上等なお召に、伊藤若冲の絵画を織りで表した帯。白地に赤の麻の葉文様の帯揚げに、これも、日本らしい色合わせの帯揚げ。
江戸時代までの日本人が持っていた美意識を具現化したようなコーディネイトで、とても心惹かれました↓
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私は、どのようなきものスタイルにも優劣はなく、ただ個人の嗜好で選べば良いと心から思っていますが、こうして好きなコーディネイトを選んで行くと、自分自身の嗜好、いや志向というものが嫌でも表れるなと実感します。“日本人しかしない色合わせ”というものに、今の私はどうしようもなく心惹かれてしまうし、それこそが一番新しいと感じているようです。

あ、そう言えばもう一つ、こんな風に、帯揚げに模様が入ったものを入れるのもとても素敵ですね。私もこれから真似して取り入れて行きたいと思います!↓
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ということで、今年のきものサローネも終了。
出店者、スタッフの皆さん、お疲れ様でした。そして、たくさんのきものファンを楽しませてくださったこと、ありがとうございました!

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きものサローネ、行って来ました&明日も行きます! 2014/11/12



前回のエントリーから大分経ってしまいましたが、その間、ひたすら原稿を書いていました。その成果は間もなく発売の雑誌にて、皆様にお届け致します。きものファンの皆さんに楽しんで頂ける内容ですので、お待ちくださいませ!

さて、その間、仕事も兼ねてのレセプションなど、少しだけきものでの外出もしていたのですが、まずは、明日まで開催中のきものサローネに出掛けた日のコーディネイトや交遊録、そして小物のお買い物ご報告を。

多くのきものファンが注目するイベント、“日本橋きものサローネ”は、今年で3年目。
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上の写真のように、全国の様々なきもの・和雑貨の作り手がブースを出し、きものファンと直接会話を交わして販売もするイベントです。
天井には、染織作家で、目白の人気きものショップ「花想容」のオーナーでもある中野光太郎さんが染めた反物がオブジェとして飾られ、きもののお祭りの雰囲気を、上品に盛り上げてくれています。

その中野さんと撮った写真がこちら(裾が乱れていてすみません)↓
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そう、中野さんは、首から下げたカードに書かれているように、サローネの実行委員でもあります。
私のきものは、祖母から伝わって来た縞模様の小紋。縮緬地に、歌舞伎の定式幕の縞が意匠化されています。
この柄で縦縞だと粋過ぎて野暮になると見越して、横縞に。更に山道にして変化をつけているという、なかなかに凝った一枚です。

このきものを歌舞伎に着て行くとそれもまた野暮と言うもの。サローネに着て行くのにはちょうど良いのではないかと思い、選びました。とても印象が強いらしく、たくさんの方に褒めて頂けました。
帯は、祖母が染めた牡丹唐草文様の名古屋帯。帯〆には生成り色の道明の冠組、帯揚げには煉瓦色の縮緬無地を入れているのですが、ほとんど見えていませんね。

こちらは中野さんと同じく実行委員の、きものデザイナー木越まりさんと↓
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以前からお噂はかねがねの木越さんだったので、会えてとても気分上がりました。私も木越さんを見習ってもっと仕事を頑張らなければ…!

きものスタイリスト・着付け師の大竹恵理子さんと。大竹さんは今回、“京都きものアルチザン”のファッションショーの演出と着付けを担当されました。アルチザン会員の京正のうっとりするほど美しい綸子のおきものがお似合いですね↓
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下の二枚は、染色作家・羽田登喜さんのショーから。同世代の女性作家の手から生まれるのは、華やかにして優しさをたたえたきものでした。
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ショー以外でも、もちろん、各ブースを回って、作り手・売り手の方たちに色々質問も投げかけ、じっくりとお話し出来たのが楽しい時間でした。

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↑山梨の「美枝きもの資料館」は、前から注目していて一度行きたいと思っていたきもの美術館。珍しい、木綿に友禅染めをほどこした江戸時代のおきものが展示されていました。富裕な町人が着ていたのものではないかと思います。やはり一度ちゃんと訪れたいものです!

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↑こちらは、有松絞りの工業組合のブース。かわいい作品がいっぱいでした♡

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↑小さなお買い物もしました。水引をアクセサリーにしてしまう!という素敵なアイディアのブランド「洒落水引」さんの髪留めを買いました(2枚目の写真)

作り手の荻原加寿美さんともパチリ↓
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おばあさまが水引の職人さんで、子どもの頃から水引の美しさに心惹かれていたという荻原さん。
一枚目の写真のように帯留にしたり、髪留めにしたり…と、きもの女子心をときめかせる色でアクセサリーに応用することを考え付かれたのだそうです。とても素敵ですね!

この他にも、繭から地元で育てる秩父太織りの織り手さん、インドネシアやタイの布を扱う「千凰」さん(帯に転用すると素敵ですよね)、「トキワ商事さん」の天然藍で染めた美しい浴衣、かわいらしい動物柄などを友禅染めする「染めもの中野」さん、越後の「きはだや」さんの更紗帯は、江戸時代の更紗を写した色合いでとても素敵でした。
…と、他にも書き切れないほどの素敵な出店が!
きものサローネは、出店者を変えて、明日まで開催。私も明日、再度伺います。フィナーレということで盛り上がりそうですね。黒か黄色地のきもので出かける予定ですので、見かけたらゼヒお声掛け下さい!

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