西端真矢

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「夏を振り返る箇条書き日記」 2010/09/09



残暑一休みの昨日、今日、皆様息を吹き返されていることと思います。
私は七月の終りから書いていた某書籍の原稿、第一稿をようやく今週頭に書き上げ、今、編集部がその原稿を精査しているところ。ようやく小休止しています‥‥が、その間にも色々他の仕事関連でやらなければいけないことがあり、ほとんど休めない!!!しかも来週早々には第二稿執筆に向けての会議もあるし、そうすればまた家に缶詰めになることが目に見えているし‥‥あと2週間くらいはきつい日々が続きそうです。
それでも、何と言っても一番きつい、
“第一稿約280頁を一ヵ月半で書き上げる。
しかもノンフィクションなので、一つ一つの事実を様々な資料を参照して裏取りしながら”
という業界の常識を軽~く破った、全く正気の沙汰ではない坂を何とか登り終えたので、登山8合目までは終了。来週からの最後の2合登山に向けて、今日の日記では、この夏を振り返ってみたいと思います。
‥‥と言っても、毎日ちょこちょこと手帳に走り書きしていた数行メモの採録ですが‥‥

8月某日
今日の夜書く予定にしている或る事実の裏を取るために図書館へ。
ノンフィクションを書く場合、Aさんが「XはYです」と証言したから、或いは「Zの本にQと書いてあるから」と言ってそれをそのまま信用して書くのでは、お人好し、またの名をバカ丸出しになってしまう。必ずその事実が本当に正しいのかどうか、或いはかなり正しいのかどうか、別の資料を使って裏取りしておかなければならない‥‥という訳で、毎日毎日昼の間、私は図書館へ通うことになるのである!
あまりにも毎日図書館に通っているので、もう職員の人とも顔なじみになってしまった。私が本を積み上げて頁をめくっていると、巡回警備員のおじさんが遠くから、うんうんと微笑みながらうなずいている。何故うなずいているのかよく分らないけれど、たぶん、「今日も頑張ってるね」という意味なのだろう。ありがたく会釈をしてまた資料に視線を戻す。

8月某日
母がひそかに帝国ホテルへ向かう。某ブランドのお客様内覧会で、秋のコートを買うため。しかし、父に知られると「またそんなものを買って贅沢して」と色々面倒くさいことになるので、母と娘の間の固い秘密ミッションなのである。
夕方、母は巨大な紙袋を抱えて帰宅する。そのときちょうど父は外出していたので、とりあえず母娘二人で戦利品を吟味。すぐさま母の部屋へと隠匿する。適当な時期が来たらさも昔から持っているコートよ、という風に何気なく着始める作戦なのだ。父はからっきしファッションセンスがないため、膨大な母の洋服を覚え切れない、という点につけ込んだ巧妙な作戦だ。
しかし、母は自分の仕事を持っていて自分のお金で買い物をしているというのに、何故こうまでこそこそしなければいけないのか? けれど私ももし結婚していたら、きっとこそこそしてしまうだろう、とも思う。平和な結婚生活を維持するのは一大事業なのだ。

8月某日
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世間では向井理が大ブームのようだけど、私の胸キュン時計はまるで触れない。
それは何故かと言えば‥‥
それは何故かと言えば‥‥
頬がぷくっとしているから!!!

美しい男性の顔、その第一条件は、頬が細いことだ。そのように、私は確信している。もちろん、日常生活で出会う男性の頬がぷくっとしていても全く構わない。頬がぷくっとしている男性と交際していたことだってある。けれど、俳優として人様の前に出るなら、顔は適度に面長でなければならない。頬はこけ気味でなければならない。丸顔の男、ぷくっとした頬の男に主役を張る資格はない!!!以上!!!むきーっ!!!

8月某日
また図書館へ行く。私が通っている図書館は都内に幾つかあるが、この日行った図書館には名物おばあさんがいて、私は勝手に「昔話おばあさん」と呼んでいる。
いつも、何故か子ども用の閲覧スペースにいて、机の上に山と本を積み上げ、その本に埋もれて前かがみになりながら紙に一心不乱に何かを書き込んでいる。どうも本の一部を書き写しているようだけど本当のところはよく分からない。ほとんど白髪の髪は非常に長く、肌は皺だらけなので相当なお年のようだ。いつも長いスカートを履いていて、辺りに一切注意を払っていない。
もしも私が小学生で、「何か絵本読もう~」と図書館に行き山と積み上げられた本の隙間からこのおばあさんの顔を垣間見たら、心底恐怖を覚えると思う。まるで子どもの頃に読んだ怖い怖い日本昔話のようだ。おばあさんはもしかしたら昔話的原初恐怖を子どもたちの心に植えつけようとしているのだろうか?

8月某日
吉祥寺の外れに新しく出来たフレンチ・ビストロへ行く。ここのオーナーは漫画家の美内すずえ先生の旦那様だ。夏の間に何度か食べに行ったけれど、店の奥には大体いつも美内先生がいらっしゃった。女性の友人らしき人と楽しそうに話し込んでいて、私たちが店に入る前から話し込んでいる上に出るときにもまだずっと話し続けている。
「先生、お喋りしてないで早く『ガラスの仮面』描いて下さい!」
そう言いたくなるのは私だけだろうか。『紅天女』がどうなるのか気になるんです!速水真澄との恋の行方も気になるんです!みんなもうずっと待ち続けているんです!

8月某日
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母の着物が入ったつづらから浴衣が出て来たので、一日着て過ごすことにする。着物には脇の下に“身八つ口”があるから、風を体に通してくれる。思ったよりもずっと涼しく快適に過ごすことが出来た。
母は若い頃日本舞踊を習っていたので、この浴衣と帯はその稽古のときに着ていたもの。もしも私がこの格好で買い物にでも出たら、全く踊れもしないのに、「あら、花柳流の人ね」と物知りの人に勘違いされてしまうことになる。家の中でしか着られない浴衣なのだけど、着物で文章を書いていると何だか宮尾登美子先生にでもなった気がして、格調高い文章が書ける‥‥ような気がする。

8月某日
毎日あまりにも暑いので、冷たいものが食べたくなる。突然、小さい頃に食べたシャービックの味を思い出し、近所のスーパーに駆け込んで一箱買い求める。
牛乳と混ぜて1時間半ほど冷凍↓
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すぐ出来上がり↓
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こんなことでも気分が変わって原稿はかなりはかどるのです☆

8月某日
今書いている原稿とは関係なく、ずっと前から本にしたいと思って下調べを続けている或る件について、思いもかけず、某大学の教授(日本人)から貴重な資料が届く。信じられないような無償の助力に、自分の幸運と、人の縁のありがたさをしみじみと感謝せずにはいられない。
この件では、中国の研究者の方からも既に協力を申し出て頂いている。これらの方々の好意と縁を絶対に無にしないように、一そう厳しく精進してゆかなければならない。

8月某日
七年前に死んだ猫の命日。お骨と写真の前に大好物だった煮干しをお供えする。‥‥が、10分後に今の猫に発見され、食い荒らされていた‥‥
気を取り直してお刺身をお供えすることにする。今の猫はお刺身にまるで興味なし。猫にも色々味の好みがあるのだ。

9月某日
第一稿を書き終えた翌日、断続的に、夕方4時までこんこんと眠り続ける。途中ではっと目覚めると右手はタオルケットを丸くつかみ、何と、夢の中でまでマウスを握りしめて原稿を書いていた‥‥。「自分を褒めてあげたい」という言葉はどことなくみっともない気がしてあまり好きにはなれないけれど、この夏に限っては、そう呟いてみても許されるかも知れない。