西端真矢

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何度でも、読み返す本 2011/06/02



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人生には、何度でも何度でも繰り返し読み返し続ける本があると思う。
私の場合、それは漱石とドストエフスキーの作品で、『カラマーゾフの兄弟』『罪と罰』『悪霊』は何回読んだか分からない。
ただし、とにかく重苦しいので、ドストエフスキーは夏の間はどうも読む気になれない。その代り、日が暮れるのが早くなり始め、葉が落ちて針のようになった並木の枝が空を――それも曇り空を――鋭く突き差す季節がやって来ると、むしょうにあの長く異常な物語の中に沈みたくなるのだ。

漱石では、『猫』と、『それから』、そして『明暗』がとても好きで、高校時代以来何年かに一度は必ずこれらの作品のどれかを読み返している。
明治に書いたとは思えないほどシャープな文章、行間から伝わって来る当時の街の気配、そして、「日本人」を残酷なほど厳しく見つめる視線。漱石が投げかける問題設定は全て、2011年現在の日本社会が抱える問題にそのまま当てはめることが出来る。その上で、全篇にまぶされている甘いロマンスの香り。

今、毎日、少しずつ何度目かの『それから』を読み返している。本の奥付を見ると私が高校三年生のときの版なので、この小説とかれこれ二十年以上つき合って来た訳だ。
裕福な家に生まれ、働かなくても生きて行くことが出来、労働を軽蔑し日露戦争のから騒ぎと戦後の停滞に沈む日本社会を軽蔑する若き高等遊民の主人公。その男がたった一人の女のために、やがてのっぴきならない状況へと追い込まれてゆく‥
小説中に何度か登場する白い花のように、甘く強い香りが、最高の完成度で私の胸に迫って来る。


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