西端真矢

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着物のお尻が破れる、という悲劇的危機に遭遇して… 2011/09/13



先週末、和文化好きの人たちが集まる昼食会があり、もちろん私は着物で参加しました。気温30度に近い暑い一日でしたが、中秋の名月も近く、「さすがに絽を着るのはどうだろう…」と迷った末に単衣を着ることに。帯は絽綴れを締めることにしました。

当日、帯が関西巻きなので着付けに若干苦労しながらも、まあ順調に終了。髪の毛もいいかんじにまとまり、気分は上々でした。あとは化粧ポーチ、お財布、携帯、パスモ入れ、地図(地震に遭遇したときにどこからでも帰れるよう、ポケット地図を常に携帯しています)…などなどの小物を鞄に収納すれば準備完了です。
「そうだ、万が一大地震が来て徒歩で帰宅しなければならくなったときのために、スニーカーも入れておかなくちゃ」
と、玄関の土間に置いてあるスニーカーを取ろうとしゃがんだ瞬間に、聞き慣れないバリッという音が聞こえました。そう、着物のお尻の縫い目が破れた瞬間です…

あわてて靴を放り投げ、私は鏡の前へと飛んで行きました。後ろを向いて、お尻の様子を確認します。無残にも、ぱっくりと空いていました。そう、3センチほどの穴が。じっと動かず棒のように立っていればおそらく誰にも気づかれないとは思われますが、いやいやそんな訳には行きません。これから新宿のお店まで電車に乗って街中を歩き回らなければいけないのです。どうしよう?今から別の着物に着替える?でももうそろそろ予定していた出発時刻が近づいていました。あと5分で二階へ上がって納戸から新しい着物を出して来てたとうから出し帯をほどいて新しい着物を着てまた着替えを全部やり直すなんて…どう考えても不可能でした。じゃあ、もう今日はお休にみする?
「着物のお尻が破けましたので…」
あまりに奇抜な理由なので皆さんこれはさすがに嘘とは思わないでいて下さるかも知れませんが――爆笑はするでしょうけれど――でも、やっぱり行きたいし…

       *

そこで奇跡的に妙案が思い浮かびました。昔から私は土壇場のごまかしがわりと上手いのです。
「ええい、雨は一粒も降っていないけれど、雨コートを着て行ってしまえー!」
そして会場に着いたら正直に「お尻が割れてますので後ろは見ないでくださいね!」と告白すれば、きっと皆さん同情して下さるに違いない(心の中で爆笑はするでしょうけれど…泣)、と、そう思ったのでした。

       *

そして私は気温30度、太陽が明るく照りつける残暑たけなわの街を、分厚いレインコートを着て歩き始めたのでした。ふだん汗をかかない冷血人間の私も、さすがに額にうっすらと汗が浮かんでいます。
ああ、冬ならばこんなときは羽織を羽織ればごまかしがききますが、今の季節では残念ながらそれはかないません。夏には夏でちりよけという薄手のコートがあるにはありますが、私は持っていないし、第一、たとえちりよけがあったとしても薄い素材なのでお尻の破れ目はきっと透けて見えてしまったでしょう。ふふふ…雨コートってやっぱりこの場合に、もうこれしか手がないという妙手中の妙手だわ、私ってすごい…ふふふ…
と、負けず嫌いの笑いを浮かべていたら、大変なことに気づきました。何と、お尻の破れ目に動揺して、携帯を鞄に入れるのを忘れて外出していたのでした。
ぎゃー!お店の地図は、
「スマフォって使いにくくて発狂しそうになるから大っ嫌いだけど、地図に関しては便利よね♪」
と、昨夜寝る前にグーグル地図にセットしていたために手持ちして来なかったのでした‥。

当日のお店は、あの日本一店の看板がごちゃごちゃしていると言っても過言ではない歌舞伎町の外れの方にあります。一難去ってまた一難とはまさにこのことでしょうか。しかしもう家に携帯を取りに帰る時間はなく、昨夜グーグル地図をセットしたときに見たおぼろげな記憶を頼りに探すしかないと心を決めました。そんなとき、電車の中でふと感じる誰かの視線。
「あの人、何故この残暑の中コートを着てるのかしら…?」
着物通とおぼしき中年の女性が混み合った中央線の人と人との隙間からこちらをじっと見つめています。
「これから雨が降るんですよ。あなたには分からないでしょうけど」
と、私は無言で威圧の視線を返しました。そう言えば、7月の始め頃だったか、母が、
「今日電車で羽織を着てる人を見たのよ。この暑いのに変よねえ」
と騒いでいたのを思い出しましたが、きっとその方にもやむにやまれぬ事情があったのでしょう。そう、着物のお尻が裂けるというような…。これからは私は、たとえ真夏の快晴の日に羽織や雨コートを着て虚空を見つめて立っている人を見かけたとしても、やさしく接しようと心に決めました。冬になって、どうしても羽織を脱がない頑固な人がいても、「えー帯の柄が見たーい。見せてー見せてよー!」と強制してはいけないことも骨身にしみて分かりました。「傷ついて 初めて 人の 痛み 分かるのさ」J-POPの詞でもさらさらと書きたい気分です。

     *

さて、新宿駅に着き、一縷の希望を胸に交番に駆け込みましたが、インターネットはなく、店名だけでは膨大な飲食店の中から店を探し出すことは不可能だと分かりました。おそらく10年降りくらいに公衆電話から104にも掛けてみましたが、店の登録がないと言われてしまい、なすすべがありません。
仕方なく、茫然と歌舞伎町をさまよう私…。怖いおじさんやへらへらしたお兄さんがそこかしこに立っています。そのとき、突然また妙案が浮かんだのでした。
「そうだ、インターネットカフェに入って、店を検索すればいいんじゃない!」
そして最低料金100円の、5分で終わる用事のために長々と住所氏名年齢を書いて入会申し込み手続きを完了し、ようやくのことで店の地図を入手。しかし私は無類の方向音痴のため、またもやぐるぐると街をさまよっていると、
「どこに行きたいの?」
と、角刈りの怖そう~なおじさんが救いの手を差し伸べてくれました。おそらくご●どうの方ではないかと思われます。
「ふんふん、ああ、これはもう近いね。あそこを曲がると地図のこの道。それをもう一回曲がるとこの裏に出るから、ここの向かい側だよ」
「ありがとうございます!!!」
こうして私はようやく店にたどり着くことが出来たのでした。

      *

さて、会場に着くなり遅刻をお詫びし、また、お尻の破れ目のことも(男性のお仲間もいらっしゃいましたが)ありのまま正直に告白すると、やはり皆さまとてもおやさしく、「大変でしたねえ」と同情して下さいました。中に一人女性の方が、
「私も一度やったことがあって、そのときは2か所を仮留めして、何とか乗り切れましたよ」
と仰っていました。皆さん、覚えておいて下さい。仮留めは、2か所です。2か所縫えばたとえお尻が破れても、何とか一日乗り切ることが出来るのです!!!きーっ!!!

その破れ目を先ほど撮影したのがこちら↓
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当初は3センチほどの破れ目だったのですが、座ったり立ったりしている間に広がって、最終的に10センチくらいの長さとなっています。
「きっと糸が弱ってたのよ」
と仰っている方がいらっしゃいましたが、確かにそうかも知れません。この着物も祖母が染めたもので、おそらく仕立てたのは20年くらい前。或いは、単衣なのに居敷当てがついていないので、そのせいかも知れません。
私はここでもまた一つ新たな学びを得ました。単衣を作るとき、ついけちって居敷当てを省略したくなりますが、やはり大変危険です。お尻問題で泡を吹きたくなければ、居敷当てです。居敷当て!居敷当て!居敷当てLOVE!

当日の着姿を撮った写真がこちら↓
店にたどり着くだけで疲れ切ったせいか、何だか顔が悲しげです。
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お尻を気にし過ぎて引っ張ったり何だりしたので着付けもぐちゃぐちゃですが、しかしこの着物、(ふだんは)わりと顔に合っていてとても気に入っています。6月の初夏の時期にも何度か着たのですが、通りすがりの年配の着物通の女性などに「とてもよくお似合いよ」と声をかけられたことも少なからずあります。これからも大切に着たいので、明日にでも早速悉皆屋さんに出して、縫い直してもらいましょう。もちろん居敷当て付きで!

帯との組み合わせのアップはこちらの写真でご確認下さい↓
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いやはや大変な一日でした。
店を出るとき、「もしや…」と一縷の望みをかけていたのですが、やはり雨は降っておらず…。照りつける残暑の夕焼けの中を、またもや雨コートを着てとぼとぼ帰ったのでした…

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