西端真矢

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最近の日中関係悪化に当たって思うこと(前回の補足) 2012/09/30



中国で起こった反日デモについて、「100都市以上で開催!」「尖閣沖に向けて中国漁船1000隻出発!」「打ち壊される日本企業工場!」と続々と伝わる強烈なニュースをそのまま真っさらに受けとめるのではなく、もう少し立体的に眺めるための初めの一歩になれたら‥そんな思いで書いた前回のエントリーが、信じられぬほどの大反響となりました。
FacebookとTwitterでの推奨クリック合計が約3万1千回以上。ブログ村での応援クリックが約5万回以上に及び、もちろん、重複して押して下さった方もいらっしゃると思うのですが、何も押さなかった方もいらっしゃると思われ、合計するとやはり8万人くらいの方に読みに来て頂いたのではないかと推測しています。(私はサイトに訪問者のカウンターをつけていないため、正確な数が分からないのです)また、多くの皆さんからメールも頂戴しました。

そもそも私はブログにも書いた通り、国際政治学や日中関係論の専門家ではありません。
そんな私が今回書かずにいられなかったのは、
「どうやら中国の至る所でデモが暴徒化しているみたいだ‥」
「中国人は一人残らず日本人を憎んでいるのかねえ。そんな国とはとてもやって行けないな」
そのような、単純で、不安と怒りに満ちた見解が、ふだん比較的良識高く暮らしている友人知人の中にも見られたことに、衝撃を受けたからです。
また、以前中国に留学や駐在をしていたことがある方、或いはまだ中国語がそんなに上手く喋れないけれど今中国に駐在して頑張っている方、中国に親近感があり中国関連のニュースは時々チェックしている方‥そんな親中派知人も大きく動揺し、
「自分がかつて(或いは昨日まで)過ごした中国の印象は悪くなかったのに、国有化問題を境に全てが変わってしまったのだろうか?」
そんな疑問に苦しんでいる姿も、私にとっては大変衝撃的でした。これを何とかしなければいけない。そんな思い寝ても覚めてもとり憑かれたようにして二日間を掛けて書いたブログがこれほどまでに多くの方の支持を頂いたことに、感無量の思いです。

私としては、
*共産党は単純な一枚岩ではなく、非常に複雑な政治体だということを理解してもらいたい
*中国人全員が単細胞な暴徒である訳ではなく、理性的な市民も数多くいることを理解してもらいたい。そして、理性的な市民と上手く連帯出来るように、日本の世論も賢くありたい
*「反日」が政治的に利用されやすいことを理解した上で、中国と向き合ってほしい

この三つのことを理解して頂けたら‥と願って書いた文章であり、頂いた反応を見る限り、所期の目的はかなり達成出来たのではないかと思っています。
ここから先は、私などよりもずっと多くの情報ソースをお持ちの中国政治を専門とする学者の方々、また、中国問題専門のジャーナリストの方々が書かれた書籍や寄稿を読んで頂きたいと思っています。そもそもがその橋渡しになることを願って書いた文章だったのですから。

             *

そんな訳で、最近の日中関係をめぐるエントリーは、今日のブログで一旦終わりたいと思っていますが(もちろんこれからも折りに触れて書くつもりですが)、幾つか、前回書き足りなかった補足説明的なことがあるので、この後書いてみたいと思います。また、日中関係は今後どうあるべきなのか?日本人は中国とどうつき合って行くべきなのか?そういう大きなグラウンドデザインについての私の意見を、最後に書きたいと思います。

まず、前回のブログで書き足りなかったことについて。
その第一は、チャイナ9をめぐる椅子取りゲームについて、です。
ただでさえ文章が長くなっていたので前回は話を政治局常務委員=チャイナ9に絞りましたが、
実はこの椅子取りゲームは、9人のポストだけをめぐって行われている訳ではありません。
党や政府の要職、都道府県知事に当たる各省のトップ。そういった重要ポストにいかに自分の派閥の人材を押し込めるか?また、全国の警察組織の要職には誰を?軍の要職には?トップのチャイナ9から始まって、全国の要職を広大に網羅する中国ならではの大スケールの派閥闘争が、繰り広げられているという訳なのです。

しかも――これも話が複雑になり過ぎるため前回は書きませんでしたが――そこには、“時間軸”という観点も存在しています。
例えば胡錦濤氏と温家宝氏は70歳定年を迎えるため今年で政界を引退すると前回書きましたが、では、例えば胡氏が故郷の安徽省に帰って毎朝太極拳でもしつつすらすらと墨で漢詩をしたためながら暮らすかと言えば絶対にそんなことはなく(表面上は目くらましとしてそうするかも知れませんが)、全国各ポストに送り込んだ自分の息のかかった人材を裏で操りながら、新主席・習近平氏が定年引退する10年後、今からそこを睨んで、これからも一日一日采配を振るい続ける腹づもりなのです。だから、チャイナ9を含む全国の主要ポストの椅子取りゲームは、10年後を睨んで行われていた訳です。
この時間感覚の長さはまさに中国的です。
しかもこれは決して胡錦濤氏側だけが行っていることではありません。10年前に政界引退したはずの江沢民氏。この化け物のような老人が、既にこの10年間、日々胡錦濤氏を妨害しつつ(笑)やり続けて来たことなのです。

             *

ここに私が前回書き足りなかったもう一つのことがあります。それは、中国の政治闘争の度を越したすさまじさ。それ故に生まれる一種の“物語的面白さ”ということです。
人の国の政治を「面白い」などと不謹慎な!と言われてしまうかも知れませんが、自分の国のことではないからこそ一歩引いて見ることが出来、面白がることも出来る。
だって、まるで妖怪のようではありませんか!胡錦濤氏と江沢民氏、二人はこれからもどちらかの命が先に尽きる日まで、ワイヤーアクションで吊られて華麗な技を繰り広げる香港映画の“竹林の奥に住む武侠の達人仙人”のように、長い長い戦いを繰り広げる…そんな絵が見えて来ます。

或いはこんな風に見るのも面白くはないでしょうか。
今回、私のブログをリツイートして下さった方のツイート一覧を時々拝見していたのですが、3000リツイートに一名くらい、「チャイナ9とか何かかっこいいな」とか、「チャイナ9か。三国志好きにはたまらないぜ」と書いてらっしゃる方がいて嬉しくなりました。
そう、不謹慎かも知れないけれど、面白いものは面白い。これほどまでに時間的にも空間的にも壮大、且つ内容がすさまじい政治劇が見られる国など他に存在しないと思うのです。
彼らが繰り広げる攻防のあり様は本当にすさまじいものです。敵派閥を攻めるための突破口(=汚職の証拠と発表のタイミング)を見つけると、その人物には、死刑、全財産没収などの激しい罰が容赦なく執行されます。本人だけではなく、一族郎党、天国から地獄へ真っ逆さま。そもそも汚職の金額や暮らしぶりもまたとんでもなく豪華です。三国志、水滸伝、項羽と劉邦といったような、中国古代王朝の興亡を描いた歴史物語を読んでいるように思えてならないのです。
思うのですが、江沢民氏にしろ胡錦濤氏にしろ薄熙来氏にしろ習近平氏にしろ誰にしろ、21世紀なので便宜上は仕方なく背広を着て眼鏡をかけたりしていますが、本当は、項羽や劉邦が着ていたあの服、諸葛孔明も着ていたあの長い服を着て胸まである髭でも生やしている方が、ずっとふさわしいのではないでしょうか。
中国は、どこまで行っても中国。いまだ古代王朝風の政治史劇が続いている国。いや、内政に関してはどうしてもそうなってしまう国だと考えた方が、何かこちらにも対処の仕方があるように思えてなりません。
そう、一人の皇帝が君臨して国を治める「王政」方式は、一応1912年に滅ぼされた清で最後となったはずですが、その後小国が乱立する五胡十六国時代のような一時期が続き、夷狄(含:日本)の侵入も受けた後、「民」の国が、立つ!…が、すぐ滅ぼされて南海の小島に移り、「共」の時代となる‥このように考えた方が、何かすっきりとして来ないいでしょうか。
もちろん、「民」の国とは蒋介石が率いた「中華民国」のことであり、「共」とは毛沢東率いた「中華人民共和国」のことです。その五代目が、間もなく即位するのだ、と‥

もちろん中国もこれからは、亀の歩みではあるものの透明度の高い民主政治へと三歩歩いて二歩下がりながら向かって行くことと思いますが‥例えば我々日本でもほとんど全ての人が「原発みたいに危険なものなど無しで済む国でありたい」と思ってもなかなか簡単には全廃することが出来ていないように、中国もそうすぐには変われません。それに一々キーキーいきり立つよりも、「ヤツら、またこんなぶっ飛んだことやってるよ」「うわー周永康ってほんと悪役キャラ」と面白がりながら観察した方が、相手の思考方法が分かり、攻めどころも、逆に今は攻めない方がいい時期だなということも、見えて来ると思うのです。
そう、こういう言い訳を引っ提げて、常日頃私は『多維』『博訊』などといった中国の裏政治ネタが集まるサイト(中国語で書かれています)を、特に仕事の原稿が書けない深夜などに目をらんらんとさせて読んでいます。もちろん多くの日本人の方にとって中国語のサイトを直接読むことは難しいと思うので、
『Useless Journal of China』
http://d.hatena.ne.jp/ujc/ 
『KIMBRICS NOW』 
http://kinbricksnow.com/archives/cat_50046504.html
などのサイトを時々覗いてみることをお薦めしたいと思います。私は、これらのサイトを見るといつも「同好の士がいるのだなあ」と嬉しくなります。日々繰り広げられる中国の政治暗闘ニュースを日本語に翻訳しつつ、皮肉の利いた文章で解説してくれています!

             *

巨大で複雑で色々とトンデモなくて、でも、市場としてはかなり魅力的な国、中国。
この国と、結局のところ皆さんはどうやってつき合って行きたいと思われるのでしょうか?どうつき合うことが一番日本のためになると思われるでしょうか?戦争?それとも盲従?その大きなグラウンドデザインがないまま一つ一つの事象に恐怖をおぼえたり激怒したりしていても、意味がないと私は思うのです。
私の考え、つまり、最終的な目標地点は、前回のブログにも書いた通り、「そこそこの関係を作ること」です。気に食わないところもいっぱいあるけれど、戦争をすればどちらが勝っても(と言うよりゲリラ戦法を取れば半永久的に戦争は続けられますし)、お互い国力の大きな減退は目に見えているから、そうならないように渋々握手する関係。中国に対して怒りや恐怖を感じた時には、いつもそこに戻って冷静に意見をまとめ、発信し、行動する。そんな日本になれたらいいなと思っています。
そして、この時に問題になって来るのは“軍事力”をどう扱うかということではないかとも考えています。この問題に関しては、盲目的な友好主義には、私は反対の立場です。中国の中に、激しい反日主義者や、覇権主義者がいることは事実なのですから、その勢力を警戒しなければならないし、抑止力としての或る程度の武力(アメリカとの提携を含む)を、日本の側も持っていなければならないと思っています。
中国人とつき合っていて思うのは、日本人とは美学が違うということです。日本人は、最後の最後のところは損得を無視して、無謀と分かっていても突撃。花と散って死ぬのを美しい生き方とする。そういう美学を持っています。しかし中国にはそんな美学は存在しません。中国人の美学は、したたかに状況を読み取って一手でも二手でも良い手を指し続け、どこまでもどこまでもしぶとく生き延びて何事かを成し遂げるというところにある。だから、血気盛んな軍人でも、必ず冷静な計算をします。こりゃあこっちも被害がかなり出るぞという戦争は、決して仕掛けて来ません。
だから、武力は蓄えておかなければいけない。けれど、刺激し過ぎてもいけない。また、戦前のように武力に関わる人間が「無謀な突破で花と散ろうぜ」と言い出さないように、常に武力の側にいる人間たちを監視もしなければならない。もう、そんな難しいこと出来ないよ!と言いたくなるけれど、覚悟を決めてやって行くしかないのではないでしょうか。

今回、全国の皆様から頂いた感想の中に、少なからず、「あなたのブログを読み終わった時、涙が流れました」という言葉がありました。その涙は何故流れたのだろう?と私は考えます。(実は私も書きながら涙が流れていました)
思うのは、戦後70年近く、幸運にも戦争をせずに生きて来られた日本人が、今回初めて、あまりにも理解し合うことが難しい巨大な他者と向き合い、薄氷の思いで平和を維持して行こうとすることの苦しさ。その苦しさを私は今日々感じて生きているし、読んで下さった方もそれを読み取って共感して下さったからこそ、涙は流れたのではないでしょうか?
それでも、苦しくても、やり抜かなければならない。日中関係は今戦後最悪の地点にいるけれど、私は頂いた反響に、やはり希望も感じています。それは、「これまでただただ中国を憎んでいたけれども、そう単純な話ではないということが分かった。もっと中国を研究しなければいけない」「全てがもやもやしていたけれど手がかりが出来た」という感想を、何通も頂いたからです。日本の多くの人たちは、これほど怒りや不安が高まった中にいても、解決策や客観的な情報をしっかりと探し出そうとしている。もちろん私のブログなどはその小さな小さな一歩に過ぎないのであり、これからも皆さんの探究は続いて行くでしょう。その賢明さ、良識の高さに、私はやはり希望を感じています。

一方で、苦言を呈したいのは、一面的な情報だけを伝えて人々の不安や怒りを煽るだけ煽り、解決のために何の提言もない一部の大手メディアです。大衆的な媒体であるからこそ、建設的な試みをすれば大きな成果を産み出すことが出来るのに、本当にもったいない。その一言に尽きます。
「だってざっくばらんに言えばさ、真面目な内容じゃ売れないんだよ」
「タイトルだって記事だって、扇情的にするのは当たり前でしょう?地味じゃ見向きもされないんだよ」
そう言うのでしょうか?
だけど今回ばかりは私はこう反論したいのです。私のような無名の人間が書いた、かなりかなり長ったらしい文章がここまで読まれたということは、こういうことにこそ、多くの人が本当に、心の底から探し求めているものがあったということではないでしょうか?
どうやったら、中国と戦争をしないで済むのか?お互い多少の痛み分けとしながら共存して行く道はどこにあるのか?そもそも中国人とは一体何を考えている人々で、どうつき合って行けば戦争に至らずに済む関係が築けるのか?多くの日本人が本当に知りたいと思っているのは、そういう、掘ってみれば単純ではないことがありありと見えて来る、複雑で客観的な情報、そして丁寧な分析、提言であり、それをきちんと追い続けることは、私のブログがここまで読まれたことを見れば、案外、売り上げにだってつながるのではないか。私はそう伝えたい気持ちでいっぱいです。

             *

本当は1回で終わるはずだったのに、あまりの反響に2回続けてエントリーした今回の日中関係悪化に関する考察、ひとまずはこれで終わりたいと思います。
もちろん、これからも私の中国に関する興味は尽きることなく続いて行くし、地道な民間交流活動のお手伝いをこれから新しく始めようとも決めているので、折りに触れて、日中関係について、或いは中国人と個人的に・民間レベルで、上手くやって行くための方法について‥そんなことを何かしら書くこともあるかと思います。(これまでもそう言ったことは書いて来ましたし)また時々このブログを覗きに来て頂けたら嬉しく思います。

しばらくは、本業の“あれこれ色々なことに手を出しているライター”に戻ります。
仕事をしつつ、このブログでは、女性の生き方、日々の暮らしの中でふと感じた喜怒哀楽について、また、趣味の着物についてのコーディネート日記、哲学・文学・美学についての論考も時には書いて行きたいと思います。今回を機に私のブログを知って頂いた皆様、どうぞまた時々遊びに来て頂けたら嬉しく思います。
そうそう、来月には、1週間ほど、渦中の中国へと旅行に出る予定です。安全には最大の注意を払いつつ、中国の今の空気を読み取って来ようと思っています。
本当にこの度はたくさんの皆様に読んで頂きありがとうございました。心より心より、感謝申し上げます。

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