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© 2011 Maya Nishihata
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本を書くために必要なこと――その一、舞台となる村を訪問する 2015/05/18
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私は今年、出版社と契約を結び、秋の終わりから執筆開始予定で、ノンフィクション小説の準備をしています(2016年5月発売予定)。こちらのブログで、これから時折り、その過程を写真もまじえドキュメントして行ったら面白いのではないか、と思いつきました。
一体、本が一冊出来上がるまでに、作り手の側はどんなことを思い、具体的に何をしているのか?よく、作家が執筆前に「山のような資料を読んだ」というのを聞くけれど、では、一体どんな資料を読んでいるのか?そもそもその資料はどうやって入手するのか?取材ではどんな人と会い、どんな場所を訪ねているのか?装丁やタイトルはどうやって決めるのか?本当の意味で覗き見出来る機会は、意外と少ないのではないかと思うのです。そして、心の中の葛藤――例えば、書けない時に何を思うのか――も、時に記して行ければと思います。
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さて、そんなドキュメントの第一回目は、取材旅行について書いてみたいと思います。
先週の金曜日、前回の日記でご報告した手の大炎症も全くおさまらない中、担当編集者の方や今回の版元の皆さんと、山梨県北杜市の武川村という小さな村へ、取材旅行に出掛けました。
この武川村は、「武川米」というブランド米の産地で、飛鳥時代から鎌倉時代までは、天皇に献上する名馬の産地としても知られた土地でした。戦国時代には武田信玄の配下に入り、戦となれば武田軍に参加した在地農民武士もいたようです。
私がこれから書くノンフィクションは、明治から平成まで、小粒ながら良書を出し続けている老舗出版社を経営する、或る家族の物語。武川村は、その初代の出身地であり、明治43年、二十五歳で青雲の志を抱いて東京へと向かうまで、青年時代をこの地で過ごしました。
もちろん、村についての資料は、東京でも、地方史資料を多く集める広尾図書館などで或る程度調べることは出来ます。作家の中には、現地に行かないで資料と想像力だけで書いた方が良いものに仕上がる、という考えの方もいらっしゃいますが、私は、出来る限り現地に足を運ぶべきと考えています。
やはり、土地特有の空気のかんじは、写真や文字資料だけでは分からない。特に私は東京育ちで田舎暮らしの経験がないため、四季それぞれに一度は村を訪れ、自分の目と体で、村の空気、光、山からの風が肌に当たるその感覚、畑の間をくねって流れる小川の水音に耳を澄ませること――そういう体験が絶対に必要だと考えるのです。
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そう、実は、武川を訪れるのは今回が初めてではありません。
上の写真は、前回、冬、一月に訪問した時のもの。
この時は一人で訪れ、一泊したのですが、とても運良く、一日目が快晴、二日目には雪となって二様の風景を見ることが出来ました。一枚目の写真の真ん中ほどには、薄っすらと富士山が写っているのがお分かり頂けるでしょうか?
そして、下の写真二枚が、今回、春、先週金曜日に訪れた時のものです。
↑一枚目の写真は、冬の一枚目の写真とほぼ同じ場所を撮ったもの(今回の方がカメラを左に振っています)。田んぼに水が張られ、稲が植わり、いよいよ今年の米作りが動き始めたことが分かります。
こうして、実際に自分の足で田んぼの間を歩き回り、時に立ち止まり、この小さな盆地の村を囲む甲斐の国の山々と、富士山とを眺める。そう、主人公がそうしていたように――取材旅行の第一目的は、この、「ただ現場の土地を歩き、立ち止まること」にあります。
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そして、取材旅行のもう一つ重要な目的は、その土地に来なければ見ることの出来ない資料を探し当てることです。
前回は、武川村の図書館を訪ね、司書の方に来訪目的をお伝えしたところ、村の古老たちに昔の思い出を語ってもらった「聞き書き集」を大量にコピーさせて頂くことが出来ました。このようなローカルな史料は、やはり現地に来なければ探し当てることの出来ないものです。
一方、今回は「北杜市郷土資料館」を訪問しました。上の三枚の写真はその内部で撮ったものですが、この資料館には、明治から昭和初期頃までの、この地方の典型的な農家が移築展示されています。また、当時この地方で使われていた農具や生活道具も大量に展示されているため、つぶさに観察して写真に収めました。私にとっては、主人公の暮らしを書く上で大変に大変に参考になる資料です。
そして、触れて良いものには触れ、学芸員や職員の方に声を掛けて、使い方の分からないものについては使用方法をレクチャーして頂きます。普通、このような郷土資料館はさーっと一通り見る方がほとんどだと思いますが、取材旅行では、事務室のドアをこんこんと、いや、もうどんどんっと激しくたたき、学芸員の方に展示室まで出て来てもらい、分からないことは分かるまで教えて頂きます。更に、必ずこちらの来意を告げ、後から関連資料を見つけたり思い出した時に連絡を頂けるよう、名刺を置いて行くことも重要です。
こうして、今回の資料館取材では「道具」や「生活背景」への知識を深め、小説のディテールを豊かにするための基礎作りをすることが出来ました。
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取材旅行、最後の大目的は、関係者へインタビューを行うことです。前回は、土地の古老に当たる方。今回は、明治から昭和まで、主人公一家の親子三代を知る親戚筋の方にお話を伺いました。
ご年配の方へのインタビューは、耳が遠くなられていたり、方言を聞き取ることが難しい、というあたりがなかなか苦労の多い点なんどえすが、やはり直接お話を伺うと思いもかけないエピソードがぽろりとこぼれ出し、いつも足を運んで良かった!と思わされます。
今回も、これまで調べた中では発見出来ていなかった、初代の戦時中のユーモラスなエピソードを聞き出すことが出来、また、思いがけなく、初代が子ども時代に奉公に出されていたお寺へと案内もして頂き、とても実りの多い取材となりました。
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‥‥このように、今秋終わりの実際の執筆開始まで、日々、地道な準備が続きます。今回は現地へと出掛けて行く、比較的‘アクティブな’取材をご紹介しましたが、東京で黙々と行う準備も実に様々と存在しています。
冒頭に書きましたように、これから折に触れて記して行きたいと思いますので――時には書けない苦しみ爆発、という愚痴のような回もあるか知れませんが――本が出来るまでの舞台裏をゼヒ覗き見に来て頂ければ嬉しく思います。
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