西端真矢

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「お着物の記 単衣の着物二枚」 2010/07/02



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今日の日記は、最近着たお着物の装い、二枚をご紹介したいと思います。
着物の世界では、七月一日で季節が変わり、“薄物”と呼ばれる透け感のある生地の着物を着ます。
その前の季節、六月一日から三十日までの間に着るのは、“単衣(ひとえ)”というやや薄手の着物。
今日ご紹介するのは、六月の間に着た二枚の単衣の装いです。

*一枚目の単衣は、トップの写真。
一昨日、六月三十日、単衣の季節のぎりぎり最終日に、朝顔の柄の単衣を着ました。
着物の世界では、少し季節を先取りした文様を着るのがおしゃれ。だからこの季節にもう朝顔の文様です。
銀座にて、秋に出る本を一緒に作っている編集者のKさんとお食事をしたときに着ました。銀座には着物の目利きの姉さまやおばさま、おじさまがたくさんいらっしゃるので、装いにもひときわ気合いが入ります。

*これは、亡き祖母が若い頃、つまり、昭和初期、1930年代後半に着ていたお着物です。長いこと箪笥に入っていたので大分汚れていたのですが、洗いに出したらきれいになって戻って来ました。おばあちゃん、ひいおばあちゃんの着ていたものが着られてしまうのですから、着物ってすごいですよね。
本当は今の私の年齢にはちょっと若過ぎる着物なのですが、私がわりと若く見える方なので、「あと1、2年は行けるかな」と着ることにしました。

*ところで、この朝顔の単衣は、我が家の着物の中でも最高クラスの一枚です。
祖母の父、つまり私の曽祖父は某財閥のナンバー2だった人なので、その曽祖父が娘のためにあつらえた着物は、どれも一級の品物ばかり。
‥と、これ、別に家自慢がしたい訳ではなく、言いたいのは、もの作りの世界は決して平等ではないということです。職人の腕には必ず良し悪しというものがあって、その中でも特に「一流」と呼ばれるまでに腕を磨く人がいる。その一流の腕に払う対価は、決して安いものではない訳です。それを払えるだけの財力を持つ人がいて、また、その職人の技を称賛する目を持つ人がいなければ、どんなに歴史のある伝統工芸も必ず衰退していってしまう‥その仕組みについて、思いを馳せてみたかったのです。

現在の私はもちろん曽祖父のような大金持ちではありませんが、この2010年の日本に、「現代の大金持ち」はいっぱいいるはずです。その人たちは、けちけちとお金をため込むのではなく、どーんといい着物、いい帯、買ってほしいなと思います。嫉妬心からなのか、そういう行為を批判する人は多いけれど、みんながユニクロの服ばかり買って、そこそこのマクドナルドじみた衣服文化しか残らなかったら悲し過ぎると思いませんか。
1000万円の着物、300万の帯、3万円の半衿!(たかが衿に3万円!)‥そう、お金のある人はどんどんいいものにお金をつぎ込むべし。それも、ヴィトンやエルメスなど海外ブランドもいいけれど、日本人なら良い着物を買ってほしい。そうやって、飛鳥・奈良時代から綿々と続いて来たこの日本の着物文化を、支えていってほしいなと思います。
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*この着物の全体の絵付けを撮ったものが上の写真。大柄の朝顔文様が、非常に大胆に着物全体に散らされていることが分かって頂けると思います。

*この着物が作られた昭和初期は、日本が日中戦争に突入して疲弊する前の、まだ余力を残していた時代。そして、江戸時代の美意識がまだ人々の生活の中に、ほんのりと色香をただよわせていた最後の時代です。
呉服屋さんとお話をしていると、よく、「戦前の逸品着物には、現在の職人がどうあがいても、なかなか技術もデザインも遠く及ばない」という話を耳にします。確かにこの着物の持つ大胆な柄付け、色の択び方には、日本の染織文化の最高度の洗練が表されているようにも思います。朝顔の図案化の仕方と言い、着物全体への散らし方と言い、色自体の出し方と言い‥平成の人間にはとても思いつかない、洗練された染めではないでしょうか。

*帯は、紗(しゃ)という薄い素材の、紺色の博多帯

*帯締めと帯揚げを白にして、さわやかに引き締めてみました。

         *

さてさてもう一枚、別の単衣の装いをご紹介したいと思います。
こちらの着物は、先々週、お茶のお稽古に着て行ったものです。
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*こちらは、祖母が染めた、紅型の単衣。土器色(かわらけいろ)と呼ばれる独特の茶色で染めています。

*着物の色がちょっと重たいので、この季節、帯は白を択んでさわやかに。絽綴れ(ろつづれ)という生地に、文様部分は、絽刺しという刺繍で作ったものをアップリケのように縫い付けています。
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*帯の文様は、「片輪車(かたわぐるま)」という伝統文様。その昔、貴族が乗った牛車の車を、メンテナンスのために時々外して鴨川の水に浸しておいたのだそうで、その様子を表す文様です。(←母の知識受け売り)

*帯締めと帯揚げも白でさわやかに統一。

‥ああ、何とも楽しいお着物ライフ。特に「着物で銀座」は楽し過ぎて病みつきになりそうです。
実は昨日、七月一日、夏着物の初日にも早速薄物で出かけていたのですが、その装いはまたの機会に‥