西端真矢

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廣瀬染工場100周年記念展覧会へ 2018/08/13



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先週末は、表参道「ジャイル(GYLE)ビル」で開かれている、江戸小紋の廣瀬染工場100周年記念展覧会「亜空間として形成する伊勢型紙・江戸小紋の世界」にお伺いしました。

廣瀬染工場は、東京の染めの町・落合に、大正7(1918)年に創業。現在は、お歳七十代の三代目廣瀬雄望さんと四十代の四代目廣瀬雄一さんのお二人にお弟子さんも抱え、全国のきものファンに江戸小紋を届けています。
江戸小紋のことは、多くの皆さんがご存知かと思いますが、私のブログには染織ファン以外の方も訪問くださっているので少しだけご説明すると――、文字通り、江戸時代に生まれた、型紙を使って染める「型染め」の技法で、遠目からは無地に見えるのに近寄って見ると極小の柄が一面に染められているのが分かるという、いかにも江戸っ子らしい、しゃれた美学に満ちた染めものです。
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廣瀬雄一さんと初めてお会いしたのは、10年程前でしょうか。
その頃の私は一きものファンで、まだ染織関係の取材をしたことはなく、いつかはきっと‥と夢見ていた頃でした。その後、念願かなって2回の取材の機会がめぐり、特に2014年の「いろはにキモノ」誌では、6ページにわたり詳細な特集をお送りすることが出来ました。正に夢がキラキラと思い通りに実現した、忘れられないお仕事です。
そして、このお仕事の記念に、我が家でも廣瀬さんのお着物を一枚持とうということになり、母とともに、後日プライベートで工房を訪問したことも楽しい思い出です。あれこれ反物や型紙を見せて頂きながら、「柳縞」という、これもまさに江戸小紋らしい江戸小紋、柳の葉で縞模様を表したイキな反物を求めました。着ていると「かっこいいねー、そのきもの」と目の高い人は必ず声をかけてくれるハンサムな一枚。過去に着た時のコーディネートは下のURLからご覧ください。
http://www.maya-fwe.com/2018/01.html
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そんな廣瀬さんの工房の百周年。私の想像では、お家でお持ちの4千枚!にも及ぶ型紙を展示したり、江戸からの伝統の柄から新作柄の小紋まで、反物をずらりと並べて展示するのでは?‥と思っていたのですが‥まったく予想を裏切られ、現代アートの展覧会と言って良い、新たな視点で江戸小紋をとらえる素晴らしい内容でした。
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展覧会は、大きく3室から構成されています。
第一の部屋では、きもの完成形に仕立てられた“廣瀬江戸小紋”の最新作3枚を展示。
と言っても一ひねりのある作品ばかりで、たとえば下の一枚のように‥
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「鮫」という、江戸小紋の中で最も格式の高い伝統柄をベースに、裾と袖に、大正から昭和初期、モダンきものの時代のペイズリー柄を差し入れた一枚。この頃は極小柄ばかりではなく、「中型」と言って、大きめの柄の江戸小紋も良く染められていたのですが、その型紙を使い、江戸と大正を平成の美意識がつなぐ、まさに廣瀬雄一の江戸小紋、と言える一枚に仕上がっています。
…とこの調子で、他の二枚もご紹介したいところですが、ぜひ会場で、ご自分の目でご覧頂きたいと思いますので、敢えて控えておきます。染め職人であるだけではなく、廣瀬さんはデザイナーでもあるのだということを見てとることが出来る第1室です。
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ところで、今回の展覧会は、建築家の長坂常さんをクリエーティブディレクターに置き、謂わば“異種格闘技”が行われていることも見どころとなっています。
気鋭の建築家として活躍する長坂さんはきものファンでも何でもなく、これまで江戸小紋についてほとんど知識をお持ちでなかった人。そんな21世紀のアーティストが初めて江戸小紋に向き合い、どんな可能性を見出したのか?――今回の展覧会そのものが江戸小紋の新しい可能性を提示する仕掛けになっていて、それはつまり、伝統技術の新しい可能性を提示することと言えるでしょう。先に「現代美術の展覧会だ」と書いたのはこのためです。
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特にその意識を感じたのが、第2室。
ここで長坂さんは、江戸小紋の「ノイズ」に注目しました。入り口には、下のように江戸小紋の型紙が展示されています↓
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よく近づいてみると、これらの型紙は、使い過ぎて破れていたり、極小のドット模様のあちこちが、訳あって彫り込まれておらず、抜けのある型紙になっていたり‥
江戸小紋を制作する過程で、型紙職人、染め職人がそれぞれ「エラー」としてはじくはずのこれらの「ノイズ」に敢えて注目してみたらどうなるのか‥?
たとえば、下の写真は、破れてしまい、テープで補修してある型紙を敢えて使用して染めたものです↓
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茶の湯の世界に、均整のとれた整った茶碗から、敢えて形をデフォルメをしたり表面の生地を整えない状態を良しとする「やつし」の美意識が存在しますが、この反物にはそのやつしの美が表れているように思えました。
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その他にもこの第2室には「江戸小紋のノイズ」が引き起こす新たな可能性、新たな美があふれています。ひとり染織の世界のみではなく、他分野のアーティスト、工芸家にとっても大きなヒントを得られる展示となっていますので――ここも敢えてすべての作品を紹介することはしません――ぜひご自分の目でご覧になって頂きたいと思います。
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第3室は、廣瀬さんが、江戸小紋の「超絶技巧」とも呼べる極限の技術に挑戦した作品を展示しています。そもそも江戸小紋という技法自体が、極小柄を彫り、それをきっかりと染めるという、極限の技術の世界。それをさらに押し進めた未知の領域に挑んでいるのです。たとえばその一つが、下の反物↓
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100周年を記念して、廣瀬さんが新しく彫りの職人さんに依頼して制作した新柄の型から古典柄の型まで、100種類の型を一枚の反物に染めているのですが‥普通は反物に対して正体に置く型紙を、敢えて斜めにずらして置いて染めています。1枚の反物に100枚の型紙を次々と置いて100型分を染めるだけでも手間がかかること極まりないのに、それを斜めに置いてきっちり柄をつないでいくのにどれほどの神経を使うことか‥。正気の沙汰ではないような試み、彫りと染めから成る江戸小紋が為し得る最高度の超絶技巧がこの部屋にはおさめられていますが――こちらも総ては紹介いたしません。ぜひご自分の目でご覧になって頂ければと思います。
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廣瀬さんの江戸小紋には、目の醒めるようなエメラルドグリーンなど、鮮やかな色や少しくすみのある淡い紫やペパーミントグリーンなど、実は、繊細で多様な色のバリエーションを味わう楽しみもあります。けれど今回の展示では、敢えてほぼ黒と白の江戸小紋でまとめることによって、「次の100年へとつながる江戸小紋の可能性を見せる」という思想が際立ったように思います。
伝統でありながら新しい表情を帯びた江戸小紋の過去―現在―未来を見渡す展覧会は、26日まで。ぜひ足をお運びください。

廣瀬染工場×長坂常
「亜空間として形成する伊勢型紙・江戸小紋の世界」
8月26日まで 
表参道GYLEにて11:00~20:00 入場無料

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おまけの画像は、廣瀬さんから頂いた100周年の記念扇子と、会場にて、廣瀬さんと。扇子は打ち出の小槌と鯛のお目出たい柄。大切に大切に、使っていきたいと思います。


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